
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第9回
退院直後の状態悪化(リスク要因の整理に課題を残した事例)①
本人と家族にとっての「普通の暮らし」と入院までの経過
Bさんはもともと目立った認知機能低下はなく,自宅では新聞やテレビを見たり,テレビゲームを少々楽しまれたりと,ゆったりと過ごしておられました。
幼少期より左足が右足に比べて短いという障害があり,そのために屋内歩行は4点杖を用いて行っていましたが,電動車いすを用いれば近隣の喫茶店にご自身で出かけることもでき,ご本人なりのペースで自宅でのんびりとした暮らしを楽しまれていました。
また,Bさんと同居されている息子さんとの関係も良好で,日中は仕事をしながら帰宅後に家事全般を担っておられる息子さんも「男二人で楽しくやってますよー」とよくお話ししてくださいました。
Bさんが電動車いすで一人で自由に外出したがることを心配はされながらも,息子さんがBさんのライフスタイルを尊重されていることで,お二人の暮らしはとても穏やかに保たれていたと思います。
しかしながら,新型コロナウイルスに感染し入院されてからBさんのADLは大きく低下し,回復期リハビリテーション病棟がある病院に転院し,立ち上がりや歩行などの機能訓練を受けて状態回復されてから在宅復帰を目指すこととなりました。
Bさんはできれば早い段階でご自宅に戻ることを希望されましたが,就労されている息子さんとお二人暮らしであることも踏まえ,まずはしっかりリハビリテーションを頑張って元気になって家に帰るということで,Bさんのご理解も得られました。
退院カンファレンス(1回目)での情報収集とアセスメント,退院支援の方針の策定
転院後,約2カ月が経過したところで,自宅への退院に向けた退院カンファレンスを病院にて行いました。この際には息子さんと同行し,まずは病院の機能訓練室にて担当の理学療法士よりBさんの現在のADLの説明を受け,また実際の本人の動作を確認することができました。
その結果,ベッドからの起き上がり,いすからの立ち上がり,歩行器を用いた平面での歩行,トイレ内での排泄動作などの基本的なADLについて,現時点ではまだ若干心もとないものの,まだ約1カ月の入院期間があることも踏まえて順調に回復をすれば,手すりや歩行器等の福祉用具貸与による環境整備と,訪問または通所によるリハビリテーションの継続,入浴支援を提供することで,概ね問題なく自宅での生活ができる見込みが十分にあることを,担当の理学療法士やMSWと確認することができました。
ADLの確認をした後は,担当の看護師より全身状態の説明を受けました。もともと前立腺肥大,前立腺がんがあるため入院中に排尿障害が発生し,濃縮されたような尿が出たり,頻回に微熱が出たりするため尿道カテーテルを使用中だが,現在,内服での排尿障害のコントロールを始めており,退院時点ではカテーテルを外して自宅に戻れる見込みもあるとの説明を受けました。
上記を踏まえ,まだ1カ月の治療とリハビリテーションの期間があることを前提に,福祉用具による環境整備,訪問リハビリテーションによる機能訓練,また,Bさんが長時間滞在するタイプの通所施設を嫌うことを考慮して,比較的短時間の滞在で入浴支援が受けられるデイサービスを主に利用し,在宅復帰後は在宅医や訪問看護師と連携しながら体調管理を行っていくことで,自宅での生活を支えていくことを基本的な方針としました。
ただし,1回目のカンファレンスにおいては関係する事業所のスケジュールの調整がうまくつかなかったこと,新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から大人数でのカンファレンス開催は見合わせたことから,在宅支援者のうち参加できたのは介護支援専門員と退院後に服薬管理を行う薬剤師の2人でした。
訪問看護師やリハビリテーション専門職,福祉用具専門相談員は参加できなかったこと,また,このカンファレンスの中で,尿道カテーテルの管理や排尿障害の治療継続のために在宅診療の導入が決まったこともあり,退院前に再度カンファレンスを行うことを介護支援専門員より提案し,新型コロナウイルスの感染拡大状況によってはwebでの開催も検討することでMSWと合意しました。
退院直前・直後の支援の経過
その後,3週間ほど経過した時点で病院より連絡を受け,Bさんは順調に回復され,入院前の在宅時点でのADLと大きく変わらないところまで回復されているとのことでした。また,排尿障害についても内服によってコントロールが可能になっており,尿道カテーテルは抜去した状態で自宅に退院できることとなりました。
退院日は息子さんの休みに合わせて直近の土曜日の午前とし,退院日当日に介護支援専門員,福祉用具専門相談員,訪問看護師,薬剤師が訪問して,退院直後の環境整備や服薬管理等を行うこととしました。
なお,この際,すでに一度病院に集合して1回目の退院カンファレンスを行った経過と,そこからさらに順調に回復されているという情報を前提に,2回目の退院カンファレンスは実施しないこととなりました。
退院直後の環境整備と対応
退院日当日,Bさん宅を訪問した介護支援専門員はまずは環境整備に着手しました。
自宅内におけるBさんの主な動線は,もともと使用しておられたベッド(非介護用,通常の寝具として購入されたものなのでギャッジアップ機能などはなし)から,細身の歩行器であれば問題なく使用できる廊下を通ってのトイレ,また,その少し先にあるリビング,さらにリビングに隣接する和室となります。
Bさんの実際の歩行動作等を福祉用具専門相談員と一緒に観察したり,本人の動きを模倣して動作感を確認したりしながら,寝室内のベッド位置の調整や寝室・トイレへの手すりの設置,歩行器の選定を行いました。さらに,Bさんは日中和室にある座いすでくつろぐことが習慣であったため,Bさんにとっては必須である和室内での床からの立ち上がりを補助するための手すりの設置などを行いました。
そして,Bさんの日常生活において最も基本的な動作となる,ベッドからの起き上がり,立ち上がり,リビング・和室への移動,ご自身でのトイレ排泄,日中の飲食がBさん一人で可能かどうか試行し,大きな問題なく動作ができていることを確認しました。Bさんご自身も「おー,できるできる,これなら大丈夫だ」と安心されたようでした。
(②へ続く)
※本記事は『達人ケアマネ』2023年12-1月号(vol.18 no.2)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。