
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第10回
退院直後の状態悪化(リスク要因の整理に課題を残した事例)②
退院直後の予期せぬ状態悪化と家族負担の急激な増大
前回のような経過によって,筆者としては,Bさんの退院支援については概ね適切に行えたと判断しました。Bさんご自身もお元気そうにされており,また,ご自宅に戻れたことを息子さんも一緒に喜んでくださいました。
しかし,筆者の安堵がひっくり返ったのは,退院翌日の日曜日の午前中のことでした。
当事業所は,退院直後や状態の不安定期においては,ご家族等からの連絡が緊急に取れる電話番号を用意しています。日曜日だったのでそちらに電話をくださったのはBさんの息子さんで,昨日とは異なり憔悴しきったお声で「昨日は一睡もできませんでした…」とお話ししてくださいました。
詳しくお話を伺うと,昨日,日中はトイレ動作などできていたものの,午後になってからは「なんだかしんどい」とBさんが訴えはじめ,最初は退院初日なので疲れているのかと様子を見ていたが夕方になっても改善せず,夜にはベッドからの起き上がりにも息子さんの介助を要するようになり,結局,一晩中トイレや着替えの介助などを息子さんが行っていたとのことでした。
発熱などの明らかな体調不良はなく今は本人も休んでいるが,体を動かす際に思うように力が入らないようで,横になってしまってから動けずにそのままでいるとのことでした。
日曜日であり緊急に支援を依頼できるヘルパー事業所等の調整も困難でしたが,訪問看護ステーションに対応を依頼し,Bさんの状態観察のほか排泄や移動の介助をしていただくことで一日を乗り切り,翌日月曜日には訪問して対応させていただくこととしました。
想定より状況が悪い場合に求められるスピード感のある介入
正直なところ,このタイミングでのBさんの状態悪化は,筆者としてはほとんど予期できていませんでした。転倒などの不意な出来事やアクシデントであれば致し方ない部分もあるかとは思いますが,そのようなことは起きておらず,昨日のBさんのご様子からも直近では大きな心配はないように思えたからです。
それはさておき,想定外のことが起こった原因は何なのか早急に分析し直し,適切な対応を取ることが迅速に求められる局面であることに違いはありませんでした。
この際,筆者が考えたことは大きく2つです。まずは,昨日行ったアセスメントにおけるADLの評価が不十分だった可能性が濃厚かと思いました。環境整備と実際の動作の試行を行い,Bさんの感想も聞き取った上で問題ないと判断したはずですが,もともと左下肢に障害があるBさんの移動動作はどうしても健側および両上腕の力に頼るような形になります。疲労度やその日の体調によっては細かな変動があるかもしれません。
普段は自分一人でベッドから起きることができるけれど,疲れていたり少々体調が悪ければそれができなくなるといった可能性について見落としがあったかもしれないと考えました。
もう1点は,息子さんの憔悴具合から,ご家族の介護力や認識,対応力に関する配慮が不十分であったかと考えました。例えばBさんのご自宅には,リハビリパンツや尿取りパッドなどがいくつか用意されていましたので,深夜帯についてはそれらを使用して息子さんもお休みいただくということもできなくはないと思われます。
しかし,そもそもそういう状況を想定していなかったために,もし急に排泄介助等が必要になった場合にどうするかという点について,息子さんと事前に相談をしておくといったことができていませんでした。
再入院と入院時連携,残存課題を踏まえての再度の退院支援
結局,Bさんおよび息子さんのお話をよくお伺いした結果,筆者の懸念は大きくは当たっていたと思います。特に日常的に介助量が多い状態での在宅生活は,Bさん・息子さんともにイメージしておられた「Bさんにとっての普通の暮らし」との乖離が大きく,お二人とも非常に困惑されたようでした。
さらに気になったのが,Bさんの「すごく濃い尿が出る」という訴えでした。排尿障害は内服にてコントロール可能とのことで自宅に戻られたものの,新たに何らかの異常が起きている可能性は否定できず医師の判断が必要と考えました。そこで,もともと入院していた病院に連絡し相談をしたところすぐに受診となり,結局,尿路感染症の診断によって再入院となりました。
この際,3日間という短い期間ではありましたが,在宅での状況について入院支援の看護師に伝達し,本人の状態の変動性が想定より大きいこと,Bさんが期待する在宅生活のイメージやご家族の介護負担についてもより配慮した対応が必要であること,さらに,この間の本人・息子さんとのやり取りの中で,早急な在宅復帰よりは,少々時間がかかってもよりお元気な状態で帰宅されるほうが,お二人が思っておられる在宅生活のイメージにより近いことが分かってきたことなどを伝え,次回の退院時には介護老人保健施設の活用を選択肢に入れることとしました。
幸い,Bさんは治療後に介護老人保健施設に入所できることになり,そのことでBさんも息子さんも喜んでくださいましたが,筆者としては大いに反省を残した事例となりました。
事例の考察
~見落としはどこにあったか? ほかの選択肢はあり得たか?
この事例について筆者が大いに反省するところは,まずは筆者の疾患理解に弱さがあったことです。
Bさんには前立腺肥大,前立腺がんの既往があり,10年以上にわたり内服で抗がん剤を服用されていましたが,普段,関連した症状についてほとんど訴えがありませんでした。
定期的な外来通院だけで長期にわたり安定的にフォローされているという長年の状況に対して,生活上の大きな障害やリスク要素としての認識が不十分になってしまっていた点は否定しきれません。入院中にあった排尿障害が退院直後に再発したり,関連する症状で状態が大きく変動したりする恐れについて,より慎重な検討が必要であったかと思います。
さらに,今回,退院直後にBさん・ご家族が直面した屋内移動における困難な点についても,アセスメントと環境整備が不十分であったと言わざるを得ません。退院当日にベッドや床からの立ち上がり,歩行器を用いての屋内歩行,トイレでの排泄動作ともに,環境整備直後の試行においてはできていたものの,安定性や持続性が低く,日常生活を滞りなく過ごす上では不十分な対応にとどまってしまいました。
病院とは大きく異なる自宅の環境において,本人が現実にどのような日常生活動作を行えるのか,アセスメントを修正する必要が本当にないかと検討する上では,再度病院を訪問し自らの目で確かめるなど,もう一歩踏み込んで取り組む必要があったかと思います。
その上で,本人の日常生活動作能力は環境のささいな変化や入院中とは異なる生活習慣によってある程度は変動し得るものとして幅をもって理解し,特に想定より状態が悪い場合の対応については事前に相談をしておくべきであったと考えています。
また,前述の2つの反省点を踏まえると,この事例については,病院から自宅に直接退院するという方針以外にも,例えば介護老人保健施設やショートステイの活用など,ほかの選択肢についても検討する余地があったかと思います。
あるいは,少なくとも,退院直後に状態悪化の引き金となり得るリスク要素についてより丁寧に検討するために,在宅医や訪問看護師,リハビリテーション職が参加した形での2回目の退院カンファレンスの開催に対して,より積極的に働き掛けるべきだったと考えます。
まとめ
~つまずきを踏まえて長期ビジョンを再検討,本人・家族の安心感の促進に取り組む
反省点の多かった今回の事例ですが,一方で今回の介入の中で,Bさん・ご家族が,今後の長期にわたる生活についてどのような思いやイメージを持っておられるのかをしっかりお聞きして理解を深め,継続して相談対応を行っていくことでBさん・ご家族の安心感に寄与できた点については,達成点として評価できると思います。
支援の結果が想定より良くない場合,つまり,ケアマネジメントプロセスの展開において設定した目標の達成が困難である場合,介護支援専門員にも動揺や不安,自信喪失が生まれるのは無理からぬことだと思います。
このような時,筆者が最も大切にしていることは,失敗や課題は反省点として率直に受け止めつつも,責任ある専門職として前向きな課題解決に取り組む気持ちに早期に切り替えることです。
専門職と言えど,「完璧」であるわけがありません。自分なりに一生懸命取り組んだつもりでも,うまくいかないことはあります。そのような時でも,決して責任回避的な態度に出ることなく,本人やご家族と一緒に問題解決に取り組む姿勢を示すことが,困難に直面した本人やご家族の安心感につながるのではないかと思います。
※本記事は『達人ケアマネ』2023年12-1月号(vol.18 no.2)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。