会員_利用者・家族・多職種が教えてくれたうまくいかなかった事例・場面からの学び・気づき

村瀬崇人

まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士

第11回

うつと依存,孤独,易怒性の強い方と向き合いながら,「ケアの多様性」について考えた事例①











「困難ケースなんです…」と言われて

 Cさんを担当することになったきっかけは,担当を替わってほしいという他事業所からの依頼でした。



 相談に訪れたその事業所の管理者とCさんを担当している介護支援専門員の話によると,Cさんはヘルパーや介護支援専門員に対して非常に怒りっぽい上,お酒に酔った状態で1日に何度も電話をかけてこられるために通常業務が中断される,また事業所や担当者に対するさまざまな不満などを関係機関や行政に対して度々吹聴され,Cさんの支援に限界を感じている。Cさん自身からも「ケアマネをクビにする」という発言が複数回見られ,解約意思があるようなので,本人と面談し後を引き継いでほしいとのことでした。



 地域で主任介護支援専門員として活動をしていると,時々こういった依頼があります。同じ介護支援専門員として,利用者の対応に苦慮する気持ちは決して分からなくはありません。しかし,筆者としては基本的にこういった依頼をそのまま受けることはありません。



 利用者本人や家族から依頼があったならともかく,現在の担当者の主張だけを聞いて判断することは,出来事の真偽を正しく判断する上でも,利用者の権利を守る公平性の観点からも,適切ではないと考えるからです。



 今回のケースでも,まずは管轄の地域包括支援センターに相談してもらい,その上でどうしても担当者の交代が必要であれば,地域包括支援センターより改めて筆者に依頼してもらうようにしました。同時に,地域包括支援センターにも連絡し,筆者としては本人の意思が最優先でよいと思うが,本人の意思については公平な立場からの確認が必要であろうこと,その上で,現在の支援者と利用者の関係の改善が可能であればできるだけそちらを優先していただきたいこと,仮に,筆者が後任を引き継ぐとしても,一事業所だけでなく地域の課題としてとらえていきたい旨も伝えました。



 Cさん本人とも面談した地域包括支援センターの担当者からは,後日,本人の意思も確認したので,後任の介護支援専門員として着任してほしい,地域包括支援センターとしても何かあれば後方支援に取り組みたいと連絡があり,私はCさんの支援に着手しました。





専門職として,当事者の多様なライフヒストリーと向き合う

 初回面談の日,Cさんは,焼酎を牛乳で割ったものを飲みながら,次のようなご自身の人生歴と思いを饒舌に語ってくれました。



子どものころから父親に殴られて育った。

学校にもほとんど行かず貧乏で学もなかったので,家を出たらヤクザになるしかなかった。

自分の方が身体が大きくなったので父親にやりかえそうとしたが失敗した。

一度は経済的に成功したが,すぐにダメになった。

妻に出会い,たくさん叱られた。自分のことをかわいがってくれて,叱ってくれる人だった。

妻ががんになって入院を勧められたが,断ってこの家で看取った。

息子は大学生の時に事故で死んでしまった。

自分は2人の魂がいるこの家で最期まで過ごしたい。入院も施設に入ることもしない。そのうち自分もここでポックリ死んでいると思う。それでよいと思っている。

 初回面談の時点からCさんは飲酒,酩酊されており,通常のケアマネジメントプロセスにおいて異様な状況であることは否めません。また,彼が語る成育歴も,筆者の感覚とは大きく異なり,まるで,ちょっとした任侠映画の設定のようにさえ思えてしまいます。



 しかし,Cさんの前にいるのは,居酒屋で酔っ払いにからまれて冗長な話を聞かされる気の弱い若者ではありません。介護支援専門員であり,専門的な相談援助技術を備えたソーシャルワーカーです。少なくとも,筆者はそう自覚していました。





専門職としての相談援助技術を「実践レベル」まで身に付け,用いるよう努める

 ケースワーク,つまり相談援助の基本原則として非常に有名でまた原理的な「バイステックの7原則」()は,多くの読者の皆さんもご存じだと思います。






 ここでは一つひとつの解説は避けますが,いずれも理解はそれほど難しくなく,またこうあるべしという意味では誰もが納得できるものだと思います。ただ,説明され理解できることと,自身が実践できることの間には確かに一線があると思います。



 Cさんとの面談にあたって,筆者は,Cさんの話を否定せず,勝手な解釈を行わず,筆者自身の価値観によって良しあしを判断しないことを意識しました。また,Cさんの話を聞くことで筆者自身に生まれた感情,考え,その表現については,慎重に自覚的であるよう努めました。



(②へ続く)

※本記事は『達人ケアマネ』2024年2-3月号(vol.18 no.3)の誌面に掲載したものです。

村瀬崇人居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。