
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第8回
一人暮らしの利用者への終末期支援②
終末期に向けた家族支援の展開
長い間連絡を取れなくなってしまった息子さんについて,Aさんは「自分が悪かったから仕方がない」「今さら迷惑はかけられない」と半ばあきらめるようなことをおっしゃっていましたが,その表情には決して少なくない心残りがあることが見て取れました。
そこで筆者は,まずは介護支援専門員から息子さんに連絡を取って事情を話し,再会やかかわりが可能かどうか打診してみることをAさんに提案しました。それについてAさんは当初,やや渋るような態度を見せていらっしゃいました。Aさんにとっては不安がよぎることでもあったと思います。事情を話して相談しても,息子さんに拒絶されたらという心配が全くないとは言えません。それでも,介護支援専門員のことをある程度信頼してくださったのか,「一回,あんたに任せてみる」と同意してくださいました。
当事者が持つさまざまな課題を,我々支援者が代わって解決することは困難だと思います。この時もそのようなつもりはありませんでした。我々支援者には,ご本人とのかかわりの中で安心感を持っていただくなどにより,ご本人自身が解決に取り組めるよう促進することしかできないと思います。そして,今回の場合はそのようなエンパワメントの過程が功を奏したのかもしれません。
さて,この後の展開,実はご本人が心配していたよりもはるかにスムーズに進みました。介護支援専門員が息子さんにAさんの状況を伝えると,息子さんは大変驚かれたようでした。また,過去の経過についても,Aさんから聞き取った内容と大きな相違はありませんでした。それでも,息子さんはAさんのことを恨んでいるわけではなく,むしろ気になっていたとのことで,近日中に来訪してくださることになりました。
結果的に,介護支援専門員が懸け橋としての役割を一時的に果たす必要こそありましたが,過去のさまざまな経過から自分からは声がかけづらかったものの,離れていてもお互いのことを気にかけていたというのは,Aさんも息子さんも同じだったようです。
終末期の支援においては,ご家族へのサポートも介護支援専門員の重要な役割になると考えます。長い人生歴の中で形成されてきた家族関係,あるいはその中でのさまざまな課題には複雑なものも少なくなく,介護支援専門員によっては,ご家族へのかかわりを苦手としている方もいらっしゃるかもしれません。
筆者も時々,そのような相談をほかの介護支援専門員から受けることがありますが,例えば今回の事例のように,生活歴の綿密な読み解きなどを通じて丁寧に取り組んでいくことで,ご本人,ご家族双方にとって助けとなる支援へとつなげていけるのではないでしょうか。
医療者・本人・家族による治療・療養方針の検討過程における介護支援専門員の役割
さて,数年ぶりの再会は,最初こそ少々の気まずさがあったものの,息子さんが週末にはAさん宅を訪問し,また医療や介護の方針検討においてはキーパーソンとしての役割を担ってくださることになりました。
ここからは比較的一般的なターミナルケアマネジメントの展開になりますが,特に治療方針の決定プロセスにおいて,ご本人の意向を尊重しながら主治医と相談してくださった息子さんの役割は非常に大きかったと思います。「完治」とまではいかないが病状の進行を緩やかにするための抗がん剤治療を提案する主治医と,あまり積極的な治療は望まれず,緩和ケアを受けながら自宅でゆっくり過ごしたいと言うAさんと,筆者としてもどちらが正しいといったことはないと思いますが,以前は「言えない」と言っていた「本音」をAさんが自分の言葉で表現できるようになりました。
なお,ここの展開において介護支援専門員としては,医療者との連携と介護面での課題解決という本来の役割を果たすことが期待されます。医療ニーズ,介護ニーズへの具体的なサービス調整については,今回の主なテーマではないので割愛させていただきますが,ご本人,ご家族,医療者と相談の上,在宅医や訪問看護との相談,調整を行いながら,在宅療養における具体的な生活イメージを示し,ご本人やご家族が自分たちに適した支援を選択しやすくするよう努めました。
納得のいく「最期」のため,「望み」を叶える支援
息子さんの週末の訪問と,24時間対応の医療,介護サービスを受けながら自宅での療養生活を続けることになったAさんから,ある日,相談を受けました。それは,もう自分は長くないだろうから,最後に息子さんと一緒に温泉旅行に行きたいというものでした。
そのころにはAさんは既に低量ながらも医療用麻薬と在宅酸素を利用していたので,体調は決して良くはない状態です。自宅内を歩行する能力は保っていましたが,体力は相当低下しており,また微熱や気分不良,疼痛,便秘といった症状も目立つようになり,訪問看護師の介入頻度も増えていました。息子さん,主治医もできればAさんの望みは叶えてあげたいと考えているものの,旅先での体調悪化が大変懸念される状況でした。
その際,大いに助けとなったのが,Aさんを支援してくださっていた訪問看護師です。筆者がAさんの相談をこの看護師と共有すると,旅行への同行と旅先での緊急時の看護の提供を提案してくださいました。制度上,この部分は自費になりますが,Aさんの望みを実現するための解決策となりました。在宅酸素の機材一式と万一のためのレスキュー薬,また旅先で救急搬送が必要になった場合の準備を整え,「最後の旅行」でのAさんの様子を看護師さんが撮影して送ってくださいました。そこには,あまりご病気を感じさせない,オシャレをしたAさんと息子さんのご家族が笑顔で映っていました。
旅行から1カ月ほどして,緩やかに,しかし明らかにAさんの状態は低下しました。息子さんの家庭の事情もあり,Aさんは最期まで一人暮らしではあったものの,事前の話し合いのとおり,最期は息子さんができる限りAさんのそばにいてくださったことで,Aさんは最期まで穏やかに過ごせたのではないかと思います。また,お母さんを看取られた息子さんの反応から,一連の支援の展開の中で十分に役割を果たしていただいたこと,その間,Aさんと息子さんの間で密なコミュニケーションがあったことが,息子さんに対するグリーフケアになっていたと考えられました。
まとめに代えて~ターミナルケアマネジメントの実践を
高齢者の終末期支援における介護支援専門員の役割に大きな注目が集まっていることは,皆さんも既にご承知のことと思います。今回の事例では,その中でも特に,介護支援専門員の専門性が大いに発揮される領域であろう家族支援に焦点を当てて紹介しました。
また,今後,より一般的になっていくであろう一人暮らしの利用者への看取り支援を行った事例でもあります。誌面の都合上,具体的なサービス調整についてはあまり触れていませんが,ご本人,ご家族の生活リズムや仕事,家庭の事情などもよく聞き取った上でスケジュールの調整を行うことが要点となりました。
地域の事情にもよるかもしれませんが,筆者が活動している地域では,ターミナル期のケアマネジメントの受け手が不足しているといった声を聞くこともあります。もちろん,ある方の人生の終末期にかかわるということは,決して簡単なことではありません。しかし,相談援助専門職としての介護支援専門員の専門性は終末期にある方にとって非常に重要なものとなります。
事例の共有を通じて,それなら自分もやってみようかと考えてくださる介護支援専門員が1人でも増えれば幸いです。
(次回より「退院直後の状態悪化―リスク要因の整理に課題を残した事例」をお届けします)
※本記事は『達人ケアマネ』2023年10-11月号(vol.18 no.1)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。