
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第6回
金銭管理が不得意な利用者への支援③
利用者理解の深まりと課題解決の経過
さて,Aさんへの支援がもうすぐ半年になろうとするころ,筆者は,Aさん,Aさんの友人,Aさんの馴染みの八百屋の店主ともフランクな会話ができる程度の関係がつくれていました。そしてそのころから,Aさんが筆者に話してくださる内容に,少しずつ変化が現れたのです。
家族もなくずっと1人で暮らしてきたこと,若いころ,そして晩年にも経済的に大きな失敗をされ多額の借金を背負ったこと,昔から人付き合いはすごく苦手で友人と呼べるような人もいなかったこと,自己管理や整理整とんも不得意で,めんどうくさく感じてほったらかしにしてしまうクセがあること,自分に自信がなく,人に頼り過ぎてもいけないというのは言われれば分かるが,いつも気がつけばそのような状況になっていること,これまで恐らくはあまり他者に理解されず,また,Aさんもそれほど説明していなかったであろうAさん自身の「生きづらさ」について,話をしてくださるようになりました。
そして,介護支援専門員にとってはやや唐突なくらいのタイミングで,Aさんの方から社会福祉協議会による金銭管理の支援を利用したいというお申し出があり,その後,順当に手続きが行われ導入に至りました。
事例の考察
この事例の支援は,自分で金銭管理ができない,という利用者のやや不可解な意向や生活の様子に対して,介護支援専門員が大いに戸惑う場面から始まりました。しかし,結果的に言うと,介護支援専門員と利用者の関係が深まり,Aさんからこれまであまり話してくださらなかったいろいろな内心をお聞きできるようになったあたりからは,一気にスピーディーな展開となり,最後は意外とあっさりと解決してしまった感があります。初期のころ,Aさんへの対応に四苦八苦した筆者としては,少し驚いた展開でもありました。
また,支援者によって判断が分かれることも多い事例だと思います。だからこそ,今となっても,結局,この事例から何を学べるのだろうかと自分でもよく振り返ります。本稿においては,あくまでも仮説ではありますが,この事例から学べることとして,筆者の考察の要点を紹介したいと思います。
課題解決を促した「伴走期間」
筆者はこの事例における課題解決を促す作用が,筆者にとっては大いに迷いながら動いた期間でもある「伴走期間」にあったのではないかと考えています。当初,Aさんは,自分が「頼っている」という,友人,知人関係に,依存的とも表現できるような態度で接しておられました。周囲の方が,時に迷惑を被るなどしながらも,基本的にAさんに対して好意的であったことは幸運だったと思いますが,それにしても,生活の根幹であるところまで頼り切るような姿勢には,一歩間違うと閉鎖的な人間関係における危うさにつながりかねない懸念もありました。
しかし,筆者をはじめ専門職支援者が継続的にかかわるようになり,まずはAさんの現在の考えやライフスタイルを尊重する姿勢を保ちながらも,デイサービスによる社会参加支援や訪問看護,訪問介護による生活面の支援を少しずつ導入していく中で,Aさんにこれまでの生活や自分のあり方とは少し異なる可能性を見つけていただくことができたのかもしれません。それは具体的には,助けを求められる人を増やす,デイサービスでの集団参加を試してみる,といった小さな変化でしたが,それでもAさんの選択肢を広げることはできたのだと思います。
Aさんの自己認識の変化
また,Aさんの自己認識にも変化があったように思います。インテーク時,Aさんはとても柔和で腰が低い態度で,一見してかかわりやすそうな印象の方でした。ですが,話を伺っていくと,Aさんの根底にあるのは,過去のいくつかの失敗が背景にある自己評価の低さであると気づかされました。ですが,ホームヘルパー,訪問看護師,あるいは介護支援専門員とのかかわりの中で,Aさんは自分の意見や思いを表明することに前向きになってくださったように思います。
Aさんを取り巻く人間関係に飛び込んだこと
そしてもう一つ,筆者にとっては実は勇気がいる決断だったのですが,Aさんを取り巻くさまざまな人間関係の中に介護支援専門員として飛び込んでいったことも,この事例における大きなターニングポイントになったと考えています。そのことによって,公的な立場にいる支援者と,インフォーマルな関係性の中にあるAさんの周囲の方々とが,立場や意見の違いは少々ありながらも,基本的には協力的な関係を保つことができ,Aさんを混乱させないよう配慮しながら必要な公的支援につなげることができました。
まとめ
~サービス調整にとどまらない介護支援専門員のあり方
最後に,この事例について振り返る時,しばしば投げかけられる質問があります。それは,「介護支援専門員はそこまでしなければいけないのか?」ということです。
実際,この事例における筆者の役割は,介護支援専門員の仕事である介護サービスの調整という範疇に到底収まるものではありませんでした。Aさん本人はもちろん,その周囲の方とも何度も対話を重ねることが課題解決の鍵になったので,それ自体は必要なことだったと思います。
しかし,改めて問われると,その質問については筆者も明確な答えは持っていません。ですから,問いを投げ返すことしかできません。あなたならどう取り組みたいですか? と。
筆者の考えは,自分たちの役割について実践の中で考えて続けていくこともまた,専門職としてのあり方の一つだということです。読者の皆さんはどう考えられるでしょうか。
(次回からは「一人暮らしの利用者への終末期支援」をお届けします)
※本記事は『達人ケアマネ』2023年6-7月号(vol.17 no.5)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。