会員_利用者・家族・多職種が教えてくれたうまくいかなかった事例・場面からの学び・気づき

村瀬崇人

まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士

第4回

金銭管理が不得意な利用者への支援①








利用者の複雑な生活歴と人間関係に戸惑う

 Aさんは,いつもニコニコとされていて話がしやすいものの,気が弱いところもお持ちのような印象を受ける一人暮らしの男性の利用者でした。



 初回面談で筆者が驚いたのは,Aさんが自分のお金というものをほとんどご自身で持っておられなかったことです。わずかな小銭はポケットの中にあるものの,通帳や印鑑,まとまった現金は自宅になく,聞けば,「自分が持っていてはすぐに使ってしまうので友達に預けている」とのことでした。そして,家賃,水道光熱費の支払いも含めて,金銭が必要な時にその知人からお金を受け取っているようでした。



 正直なところ,介護支援専門員としては非常に不安になる話です。まず,本人が自分で金銭管理ができないという時点で,何らかの支援がなければ,安定した生活そのものが危ぶまれます。また,本人が信用して金銭を預けている友人といっても,公的な代理人などの立場にあるわけではなく,本人との関係が実際にどういうものであるのかを介護支援専門員が計り知ることは難しい状況です。本人がそう言っているからといって,安易に金銭管理のキーパーソンとするわけにはいかないものの,本人と友人との関係は強いようで,一概に否定することもできませんでした。





公的な支援の導入は本人が拒否。さて,どうする?

 軽度の認知機能低下のある方が,本人の意向とはいえ,友人に金銭管理を頼んでいる。権利擁護の視点から考えた時に,介護支援専門員として違和感を持たずに受け入れることはできません。金銭管理が適切にされているのか外部から評価するのが難しいというだけでなく,仮に一時的にうまくいっていたとしても,少なくとも,金銭が絡んだ人間関係のトラブルの原因にもなりかねない状況が温存されてしまっていることには,大いに懸念が残ります。



 そこで,恐らく多くの介護支援専門員が考えるのは,社会福祉協議会などが行っている公的な金銭管理の支援を導入することだと思います。筆者も真っ先にそれを思い,早速,本人に制度の説明と導入の提案を行いました。



 ところが,本人から返ってきた返事は,「今のままでいい,特に問題ない,信用している人に預けている」というものでした。





介護支援専門員の価値観や「常識」の押しつけにならないかかわりができるか

 結局のところ,筆者はいったんこの状況を受け入れることにしました。難しい判断ではありました。介護支援専門員にとっては理解が難しい「本人の意向」でしたが,少なくとも本人が,自分で友人に金銭管理を頼んでいるということは事実で,代替案を提示した上での本人の返答です。また,実際に,友人の管理において支払いの滞りなどの問題が生じていなかったことも加味しての判断でした。



 この際,筆者にも気づきがありました。公的な機関や専門職によるものでないと信用しにくいという考えは,社会福祉の専門職であるからこそ持ちやすい価値観かもしれないと気づいたのです。そのような制度に馴染みがない本人にとってみれば,聞いたこともない「公的な機関」の見知らぬ「専門家」よりは,普段の付き合いがある「友人」の方がよっぽど信用できるという気持ちは,そう不思議なものでもないように思えました。





地域での連携で包括的な支援につなげていく

 さて,この事例のように,人によって価値判断が大いに分かれるような場合には,介護支援専門員が1人で判断しないことも重要です。今回の場合,地域包括支援センターの社会福祉士や生活保護のケースワーカーとも状況を共有し,相談した上で判断しています。



 具体的には,現段階での公的な金銭管理の支援の導入が妥当か,あるいは妥当であったとしても可能かどうかの検討を地域包括支援センターにて行いました。当然ながら悩ましい事例として議論されましたが,地域包括支援センターの社会福祉士や主任介護支援専門員の助言を得て,現在の本人の状況が適切であるとは言いにくいものの,本人がはっきりと口にしている意向を無視することは現実的にもできず,介護支援専門員と地域包括支援センターが連携を取りながら継続的にかかわる中で,より積極的な介入をすべきポイントを模索することとなりました。



(②へ続く)

※本記事は『達人ケアマネ』2023年6-7月号(vol.17 no.5)の誌面に掲載したものです。

村瀬崇人居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。