
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第3回
介護支援専門員がものとられ妄想の対象になってしまった!③
「社会的処方」の視点からインフォーマルを巻き込んだポジティブな支援方針を考える
ものとられ妄想への対処として行った買い物同行支援の中で,通りすがりの近隣住民の方々とのかかわりによってAさんの思わぬ「強み」を発見できたことは,Aさんの支援方針を検討する介護支援専門員にとって重要な契機となりました。
近年,疾患を背景としながらも,社会的孤立など,医療による対応だけでは解決が困難である複合的な生活課題を有する利用者に対し,社会参加の機会やコミュニティにおけるつながりを確保することで課題解決を促進する考え方が注目されるようになりました。これを,「社会的処方」(図)と言います。Aさんに必要な支援も,そこに該当すると思われます。
図 支援の手がかりとしての社会的処方の考え方
先に検討したように,例えば,子ども好きなAさんがもう一度,「お話のおばちゃん」として活躍できる機会があれば,あるいは近隣のサークルやコミュニティなどに参加する機会があれば,Aさんの孤立感や葛藤も緩和され,損なわれた自尊心の回復にも寄与するかもしれません。介護支援専門員としては,そういった着想を得ることができます。
もちろんそのためには,そういった形で活用,参加できる社会資源の探索,発見,連携,場合によっては社会資源そのものをつくっていくような取り組みも必要になります。介護支援専門員が単独で取り組めるようなことではなく,また,一朝一夕にできることではないとしても,長期的な視点として介護支援専門員の思考の核にこのような展望があるかないかの違いは,利用者へのかかわり方の違いとしても明確に現れます。
ただただ困難な問題事例としてではなく,個別課題の解決,その先に地域課題へのアプローチという視野が得られるという前向きな気持ちに援助者のマインドが切り替わるだけでも,利用者支援の充実につながっていく感触がありました。
地域で行う長期の伴走支援,
包括的・継続的ケアマネジメントの実践
とはいえ,一人の利用者に対して一人の介護支援専門員が無尽蔵に時間と労力を割くのは不可能です。また,繰り返される困難を一つずつ乗り越えていくといっても,当の支援者が孤立してしまい一人で悩みを抱え込んでしまったら,支援の行き詰まりだけでなく支援者自身の燃えつきにも容易につながってしまうでしょう。
Aさんの事例は,まさにそのような落とし穴にはまりこんでしまう恐れが非常に高いものでした。それを危惧した筆者は,着任とほぼ同時にAさんを支えるネットワークづくりに取り組んでいます。地域包括支援センターと連携しながら支援を進めるのはもちろん,受診に同行して主治医と顔をつなぎ,また,かかりつけ薬局とは居宅療養管理指導の導入も想定して情報交換や連携体制の構築に努めました。
また,訪問看護の導入に向けても動きだしています。すぐには訪問成立にまで至らずとも,Aさんの状態を共有する中で主治医と必要性について意見を一致させ,地域の訪問看護ステーションの中で対応可能な事業所を探します。地域包括支援センターを通じて保健福祉センターとも連携を取れるようにし,行政の専門相談の機会も活用しながら,早期に地域ケア会議を開催できるよう働きかけていきます。
筆者がここで常に意識しているのが,包括的・継続的ケアマネジメント,つまりは,一人の高齢者ができるだけ元気に,また幸福に,住み慣れた地域で暮らし続けられるように,地域の多職種・多機関がかかわるチームづくりをすることです。社会的孤立を背景とした根深い葛藤から思わぬストレングスまで,多様な一面を見せてくださるAさんに対して,明確な「正解」という方針が見えにくい中,多職種・多機関が参加する地域ケア会議での検討は,介護支援専門員にとって判断の指標を得られるだけでなく,介護支援専門員自身の負担感やストレスの軽減にも大いに有効なものとなりました。
解決を目指す課題が複合的であるAさんの場合,1回,2回のケア会議で終結できるものではありませんが,状況に応じて適宜,複数回のケア会議を行うことで,Aさんを長期にわたり地域で支えられるよう取り組んでいます。
一人で困るのではなく,みんなで困る
精神疾患の症状やBPSDが強い利用者を担当するとなると,時間と手間がとてもかかるだけでなく,担当する上での心理的な負担もとても大きくなります。介護支援専門員の中には,つい苦手意識を持ってしまったり,尻込みしてしまったりする人もいるかもしれません。あるいは,すでに担当していて支援に行き詰まっているけれど,誰にも相談できずに窮地に陥っているという場合もあるかもしれません。
筆者は,とにかく「一人で困らないこと」を心がけています。利用者がかかりつけている主治医はもちろん,薬局や地域の訪問看護ステーションなどの医療機関,地域包括支援センター,民生委員などとも顔をつなぎ,相談相手を増やすことから始めています。
一人で困り果ててうつむいてしまうくらいなら,顔を上げて少しだけ視野を広く持って,仲間を増やして取り組めるところから取り組む。そんな心づもりで,「困った」事例にも前向きに取り組んでみませんか?
(次回からは「金銭管理が不得意な利用者への支援」をお届けします)
※本記事は『達人ケアマネ』2023年4-5月号(vol.17 no.4)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。