
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第2回
介護支援専門員がものとられ妄想の対象になってしまった!②
一時的にうまくいっても「油断」しない。
制限された認知機能で現実を理解するしかないAさんへの配慮で,「妄想」の緩和や再発防止を意識する
新たな妄想につながらないような配慮が必要です。前回は,良かれと思い薬局の販売品のコーナーに寄り,Aさんが好むお菓子類などを見て帰りましたが,まさかその時の行動が,後にものとられ妄想につながるとは思ってもみませんでした。あまり深く考えずにAさんの希望に応じて望みの品物を取ってきたり戻したりしていましたが,次回は品物を代わりに取るのは控えました。幸い,背の低い棚ばかりだったので,車いすから手を伸ばしてもらえばAさんの手で品物を取ってもらうことは可能でした。
また,ちょっと窮屈な感じもしましたが,買い物かごはずっとAさんの膝の上に置いておき,さらに支払いは,後の人には待たせてしまって申し訳なかったものの,介護支援専門員は現金を触らず,時間がかかってもAさん自身に行ってもらいました。
こうした対応は,再び妄想の対象にならないようにするため,つまり介護支援専門員自身を守るためにそうしているようにも見えますが,それだけではありません。Aさんの制限された認知機能を意識して,Aさんが後々も安心できる状況をつくるようにかかわるという重要な側面も持ちます。また,介護支援専門員としては,Aさんの状態への理解をさらに深め,相談援助の中に定着させるプロセスでもあります。
認知症独居者への伴走支援として「治し」きれない困難を受け入れる/付き合っていく
その後,買い物を終え上機嫌で自宅に戻られたAさん。ここでも,危険がないよう最低限の移動介助はするものの,介護支援専門員がパッと荷物を持って家の中に運んでしまうようなことはしません。すると,ちょっと冷静になって「泥棒」のことを思い出されたのか,Aさんがクスッと笑いました。
もちろん,これだけ気をつけていても,明日には,『サバの味噌煮泥棒』や『釣り銭泥棒』にされてしまう可能性は否定できません。そこはやはり,認知症があるAさんのやむを得ない状態,少なくとも医療では「治し」きれないものとして周囲が付き合っていかざるを得ない部分があるのも現実です。
それでも,どうやら今回のエピソードはなんとか乗り越えられた感触はありました。介護支援専門員も,Aさんの自宅を出てから思わず大きく息を吐きました。
Aさんへの支援はまだ始まってから長くはありませんが,おそらくはこれからも似たような難しさに何度も直面すると思われます。本人にとってつらく,また,周囲にとって対応が難しい「生きづらさ」を持つAさんへの長期的な支援に取り組む介護支援専門員のスタンスが問われ続けていくととらえるしかないように思えます。
利用者の多様な一面,特に「強み」の発見を糸口に支援の方向性を探る
さて,この時,さらに意外な展開がありました。
介護支援専門員もAさんも,声が大きくてよく喋る方です。なんだかんだと会話をしながら買い物を続けていると,ふと,ほかのお客さんが「すごく仲がいいんですね」と話しかけてこられました。するとAさんは,「せやねん,息子やねん」とちょっとうれしそうに答えられました。
さらには道すがら,Aさんは通りかかった親子連れに機嫌よく声をかけられました。若いお母さんに抱っこされた赤ん坊に,「かわいいねえ」と声をかけ,手を伸ばされて,お母さんの了解を得て少しだけ赤ちゃんに触れると,「やわらかいねえ」とうれしそうにされたり,5歳くらいであろう男の子には「ボクいくつ?」とニコニコしながら尋ねたりされていました。
このことには介護支援専門員も率直に驚いたので,幼い子どもの対応が随分と上手であると話すと,彼女は誇らしげに「私ね,昔,この辺でお話ボランティアしてたのよ。私は子どもはいなかったんだけど,お話のおばちゃーん,お話のおばちゃーんと子どもたちが寄ってきてくれたのよ」と話をしてくださいました。
介護支援専門員にとって,Aさんはいつも被害妄想を訴えておられる印象が強く,非常にかかわりが難しいタイプの利用者としてとらえていたのですが,そんなAさんの知らなかった一面(生活歴)が見えてきたのです。
携帯ゲームもインターネットもない時代,「お話」で隣近所の子どもたちを楽しませる若かりし日のAさん。今の介護支援専門員にはいろいろな意味でなかなか想像がしにくい風景ですが,話しぶりからしておそらくは真実です。もしも,地域の中にAさんが在りし日の活躍ぶりを発揮できるような場所があれば,Aさんの支援は大きく発展するかもしれない。介護支援専門員に,そんな気づきを与えてくれるエピソードでした。
(③へ続く)
※本記事は『達人ケアマネ』2023年4-5月号(vol.17 no.4)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。