
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第1回
介護支援専門員がものとられ妄想の対象になってしまった!①
「支える人」も「支えられる」ように
筆者は,主任介護支援専門員として,日々,さまざまな介護支援専門員の相談を受けます。多くの場合において,専門職支援者としての適切な対処が難しくなってしまった時,支援者自身を支えてくれる相談相手が見つけられず,打開策が見いだしにくいまま支援者自身も疲弊してしまっている状況に気づかされます。
そもそも,利用者支援の最前線で利用者の「生活全体」を見て支えていく立場にいる介護支援専門員が取り組むべきことは実に膨大です。その中には,介護支援専門員のこれまでの経験の中にはなかったことや,知識や力量を超えること,あるいは,価値観,考え方として理解や共感がしくいことに対処せざるを得ないということも含まれると思います。
本連載では,筆者自身の経験から,介護支援専門員として「困ってしまった場合」を振り返り,そこで得られた気づきを整理していきたいと思います。事例によって直面した課題は少しずつ違いますが,共通して重要であった要素は,「支援者自身が孤立しない」ということでした。
だからこそ,本連載の最大の「ねらい」は,今まさに真摯に利用者支援に取り組みながらも,さまざまな困難の前で立ち止まり,時に徒労感さえ覚えてしまうような状況にある対人援助職に対して,できる限り寄り添うことにあります。
利用者への対応は個別性が強く,本連載で紹介する各事例の方法論や知識が,ほかの利用者に対しても同様に通用するわけではないと思います。しかし,個別の判断の背景にある考え方や判断基準については,ある程度の普遍性があるかと思います。
それらが,読者の皆様にとって少しでもヒントとなれば幸いです。そして何より,誰かを支える立場にいる私たち自身もまた,誰かによって支えられ,あるいは支え合えることが大切であるという気づきが,孤立し力尽きていこうとしている対人援助職にとってのサポートとなることを願います。
唐突に利用者から拒絶された時は,落ち着いて専門職視点を取り戻す
「あんたが私のお菓子を盗んだ犯人だ!」
認知症があるAさんが突然,そう主張されだしました。
思わず即座に否定しそうになるところですが,介護支援専門員のことを「お菓子泥棒」だと思い込んでしまっているAさんに対して,果たしてそれが有効なのでしょうか。ここでは,いったん踏みとどまって考えます。
おそらく,こちらが反射的に強く否定しても,Aさんの疑念はますます深まるだけでしょう。かと言って,「そうです,私がお菓子泥棒です」と言うわけにもいきません。とりあえずは否定も肯定もせずに話を聞きながら,どうしてAさんが介護支援専門員のことをお菓子泥棒だと"見抜いた"のかを考えていくこととします。そうすると,関連していそうな場面や出来事にいくつか当たりがつけられます。正常な認知であればそうは解釈されないだろうことでも,Aさんにとっては疑念につながるような場面だったのかもしれません。
この日,介護支援専門員がAさんを車いす介助して通院し,その後,薬局に寄って薬を受け取るとともに,薬局で販売されている低カロリーなお菓子や低糖質なお菓子などを見て帰りました。Aさんは,その中で2つ,3つ,気になるお菓子があったようで,一度は購入しようとして,「あれとそれを棚から取って」と介護支援専門員に持たせました。しかし,結局は財布の中の持ち合わせを気にされ購入まではされませんでした。おそらくは,その時の出来事が今回のものとられ妄想の起因になっていると思われました。
一見,全く根拠不明のように思えるいわゆる"妄想"も,現実にあったちょっとした間違いや混乱,不安,あるいは困りごとがその背景にあることが分かれば,たとえ被害妄想の対象になってしまったとしても慌てずにアセスメントして専門職としての対応をすることができます。
BPSDや精神疾患の症状が強い利用者へかかわる際には,具体的な困りごとの解決と背景にある葛藤の理解・緩和を意識する
とはいえ,すっかり興奮してしまっているAさんに強引に介入することはできませんので,耐えるしかないような時間はあります。「泥棒」だとされている介護支援専門員に対してはさんざんな言われようでした。しかし,5分,10分と,ひたすらAさんの話を聞きながら,Aさんの気が変わったり,話し疲れて関心がほかにそれたりするタイミングを待ちます。
ようやく少し落ち着かれたころに,介護支援専門員が「食べたいものが手元になくて困っているのなら,一緒に買い物に行きましょうか?」と提案すると,案外にあっさりとAさんは「それでいい」とおっしゃいました。
夕方,介護支援専門員は車いすを押してAさんを近所のスーパーに連れて行きました。Aさんは,一転してとても上機嫌で,「あっちに連れてけ,こっちに連れてけ」と言いながら,好きな物をかごいっぱいに買い込んでいかれます。
歩行状態が悪く,一人での外出が難しいAさんにとって,自分で好きな品物を見て選び購入できる機会はそれほど多くありません。普段は,記憶やチラシに頼り品物を指定してヘルパーに買い物を代行してもらっていますが,指定どおりにヘルパーが購入してきても,Aさんにとっては自分が思っていたものとちょっと違うということもしばしばあるようでした。
また,独身で仕事を続け,自立心の強い職業人として生きてこられたのであろうAさんにとって,一つひとつ誰かに頼んで行ってもらう必要があり,しかもその結果になかなか納得がいかないという状況は,日常的なストレスとなっているようにも思えます。
介護支援専門員にとっては一手間,二手間増えたものの,この場面でのかかわりは,Aさんにとってすぐに必要な物を確保するという実際的な問題の解決と,普段,ストレスをためておられるAさんの心情を理解し,その緩和に取り組むという大きな2つの意味を持つものになったと思われます。
(②へ続く)
※本記事は『達人ケアマネ』2023年4-5月号(vol.17 no.4)の誌面に掲載したものです。
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。