会員_利用者・家族・多職種が教えてくれたうまくいかなかった事例・場面からの学び・気づき

村瀬崇人

まごころステーションすくらむ 代表 主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士

第13回

うつと依存,孤独,易怒性の強い方と向き合いながら,「ケアの多様性」について考えた事例③





 Cさんに対する約1年間の支援を次のように振り返りました。



Cさんとの関係は保てる。

前任の介護支援専門員を追い詰めたさまざまな「問題行動」は消失してはいないが,引き継ぎ時に聞いていた程度よりはやや改善されているように思える。

うまくいっているとはとても言えないが,少なくとも支援関係は破綻していない。

先行きは見えない。

今後顕在化してくる恐れがあるリスクは数多くあり,それらに対する備えは不十分である。

 これを「困難ケースに対する伴走型支援」と言ってしまえば,それはそれで説明がつくのかもしれません。また,一定の経験を積んだ介護支援専門員であれば,このような手間暇のかかる対応を内心煩わしく思いながらも,終結まで担当することも不可能ではないと思います。



 ただ,同時に,一応は「伴走」しているように思えるが,どこに向かって走っているのか分からない,あるいは進んでいるのか,停滞しているのか,後退しているのかさえ不明瞭な状況でもあるという問題意識も持っていました。



ケアの幅を広げるさまざまな社会資源への注目

 Cさんの支援について先の展開を筆者が迷っていた時,地域の訪問看護ステーションが精神疾患のある利用者に対するアートセラピーを実践しているという話を聞きました。また別の事業所では,ベテランの介護支援専門員がデイサービスなどでのボランティア活動としてミュージックケアに取り組んでいるという話も聞きました。



 いずれも,介護保険サービスとしては一般的ではないかもしれませんが,「ケア」という概念をより広くとらえ,何らかの「生きづらさ」を持つ人に対するアプローチを行うという点で,筆者は大いに興味を抱きました。



 早速,地域の仲間たちに声をかけ,アートセラピーやミュージックケアを体験させてもらうと,筆者は「介護」や「ケア」というものを少々狭く考えすぎていたのかもしれないと気づきました。そして,もしもCさんがこのようなケアを受けられたら,どのような一面を見せてくださるだろうか,そこにはまだ筆者も気づいていない面・表情があるかもしれない,と思い至りました。



 その後,筆者はCさんに,アートセラピーを実践しており,精神科の対応も可能だという訪問看護師を紹介しました。ちょうどそのころ,Cさんからも「現在支援を受けている訪問看護師との関係がうまくいかないのでステーションを変更してほしい」という訴えがあったので,対応が必要な状況だったのです。



 アートセラピーの話も具体的にしたかったのですが,まずはCさんに,「訪問看護師に一番望むのはどんなことですか?」とお聞きしました。Cさんは「僕の話をよく聞いてくれること。僕はうつがあってよく怒るけれど,ちゃんと聞いてほしい」とおっしゃいました。そのようなCさんの話を訪問看護師は,やさしく受け止めてくれていたように思います。



 セラピーをどのように行うかは,もう少しアセスメントを深めてから検討することにしました。まずは,Cさんの希望に基づいて訪問看護ステーションを変更し,今後は新しく支援を行ってくださる訪問看護師と相談しながらCさんのケアマネジメントを続けていくことにしました。



 さらにその際,筆者はふと,お酒をあまり飲んでいない時のCさんは,大きなヘッドフォンでよく音楽を楽しんでおられることに気づきました。自分の体には刺青があるからデイサービスには行かないと通所を拒んでおられたCさんも,ミュージックケアをされているデイサービスであれば,ひょっとしたら違う感想を持たれるかもしれない,とも思いました。



事例の考察

 今回,紹介した事例については,ご覧いただいたように,今のところ分かりやすい「結果」はまだ出ていません。また,何か具体的なことが「解決」したと言えるような状況でもありません。筆者も,Cさんとの関係を何とか保ちつつ,また事業所の苦境を可能な限りサポートしながら,必要なサービス調整をするのに精いっぱいとなってしまっているような状況です。



 今回,Cさんの支援に何らかの前向きな変化を与え得るアートセラピーやミュージックケアの実践にしても,その成果が実際にどうなのかはこれからの経過の中で評価していくよりありません。しかし,Cさんの支援を続けながら,Cさんにとって真に必要な「ケア」とは筆者が思っているよりももっとずっと幅の広いものではないか,という筆者の気づきは重要なものであったように思います。



 いわゆる「困難ケース」と言われるような事例について,客観的な課題解決も支援者としての達成感もなかなか得にくい状況があることは筆者自身も経験しており,知っています。そして,仮にそうであったとしても,支援者として粘り強くかかわり,時に戸惑いや徒労感を覚えながらも利用者の現実の生活を何とか支えていく実践も必要だと思います。



 もし,私たち介護支援専門員がもう少しだけ視野を広げることができたら,また,多様な支援のあり方や可能性に目を向け適切に利用者につなげることができたなら,もう少しだけ違う景色が見られるかもしれません。



 筆者はそこに,地域社会において人と人をつなぐワーカーとして成熟した介護支援専門員の将来像を期待したいと考えています。



(次回からは「栄養ケア・マネジメントに取り組んだ事例」をお届けします)

※本記事は『達人ケアマネ』2024年2-3月号(vol.18 no.3)の誌面に掲載したものです。

村瀬崇人居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。