
前田麗子
株式会社わがんせ 代表取締役/あすなろケアプラン 管理者 主任介護支援専門員
ケアマネジャーを紡ぐ会 副会長 岡崎市議会議員
第7回
モチベーションの支持と応援(対話ができる環境づくり)①
今回お話しすることは,「これが最強のノウハウだ!」というより,「いまだ試行錯誤しながら最善の方法を探していること」という前提で読み進めていただけると幸いです。
2016年7月,あすなろケアプラン(以下,当事業所)を開業した当時は"一人ケアマネ"だったため,やる気満々の一人社長で,自身の仕事に対するモチベーションのことなど考えたこともありませんでした。
その後,開業から2年が経過した時に初めて従業員を雇うことになりました。それ以降,経営者兼管理者の私は,「いかにスタッフのモチベーションを保ち,長く勤めてもらえるか?」ということを常に考えてきたと言っても過言ではありません。まさに,夜も眠れないほど悩んだこともあります。
これまで介護の仕事を16年やってきて,ヘルパーや介護福祉士,ケアマネジャーの資格を取得してきました。経験年数だけ言えば「介護のプロ」ではあります。しかしながら,職場のマネジメントについて学んだ経験はありませんでした。なのに,いきなり従業員を雇い,職場マネジメントをしていかなくてはならなくなります。介護の経験や知識はあるが,職場マネジメントの経験は皆無の中,管理者要件があるというだけで職場のマネジメントを任されてしまうのです。
私自身の話に戻すと,採用したスタッフが入社した当時はとても関係性が良好だったのに,ある時期から何となく雲行きが怪しくなり,ある日突然,「社長、ちょっと話があるんですが」と辞表を突き付けられました。
当時の私は原因が分からず,スタッフが辞めてしまったのはすべて自分の責任であるものの,どうしたらよいかまったく分かりませんでした。そこで,職場マネジメントについてさまざまな学びの場に行き,さらに自分主催でケアマネジャー向けに「職場のモチベーションを保つための方法」や「チームカが向上するための職場環境の作り方」というセミナーや勉強会を開催しました(写真)。とにかく多くの現場の声,現役ケアマネジャーたちの声を聞きたかったからです。
今回は,自らの学びや実践を通じて,ケアマネジャーの仕事のモチベーションの保ち方に大切な,職場の「場」づくりについてお伝えします。
職場づくりに大切な心理的安全性~あなたの職場には「職」はあるが「場」がないかもしれない!?
ここで,とても興味深い調査を紹介します。Google社が実施した「よい職場づくりに大切な要素」についての調査1)です。ここでいう「よい」とは,「生産性が高い職場」と定義されています。
生産性の高い職場づくりのために最も必要な要素は何だと思いますか? 強いりーダーシップでしょうか? 高い報酬が生産性を上げるのでしょうか? 福利厚生制度の充実が必要なのでしょうか?
実は,最も大切な要素は「心理的安全性」がその職場にあることなのだそうです。つまり,職場の中で自分の意見が否定されず,存在を拒絶されず,全面的に受け入れられていると信じられる職場であることなのです。
Google社の調査において証明された,心理的安全性の確保こそがよい職場づくりに必要だという事実…ふむふむ,なるほど! それでは,心理的安全性をどのように職場環境に落とし込めばよいのでしょうか? 実際にセミナーや研修で行っているワークで紹介していきます。
まず、あなたの職場の今の状態を漢字1文字で表すと何でしょうか?
次に、あなたが理想とする職場をイメージしてみてください。具体的に想像してみましよう。例えば,机の配置とか,日当たりの良さとか,職場に漂う香りとか,流れている音楽とか…。
ご自身の理想だから,どんどん妄想していただいて結構です。お給料はいくらくらいとか,休日の取りやすさとか,利用者宅で叱責を受けた後,嫌な気分で帰ってきた時に,職場の仲間たちはどんな声かけをしてくれるのかとか…。
それらをイメージして,理想の職場を漢字一文字で書いてみてください。
各スタッフのモチベーションを支持しながら,生産性の向上を図れる職場づくりは図1のように現実と理想のギャップを埋めていく作業ではないでしょうか。
これまでケアマネジャー向けのモチベーションアップのセミナーの冒頭で,このようなワークをしてきました。すると,参加者の皆さんは「楽」「笑」「嬉」などの漢字を書いてくれ,どうしてそう考えたのかをグループワークでシェアすると皆さんとても生き生きした表情で語り出します。
このワークのポイントは,理想とする職場の定義はそれぞれ違っており,千差万別であるということです。そして,それを対話という形で話し合える環境があなたの職場にありますか?…ということなのです。
職場という言葉の中には,「職」という文字と「場」という文字があります。心理的安全性が低い職場では,「職」はあっても「場」がないかもしれません。「場」とはつまり,あなたの職場において心理的安全性が確保された状態で,職員同士が互いに対話できる場所であるかということなのです。
「安心・安全・ポジティブ」な会議の進め方から職場づくりを学ぶ
前述したとおり,私自身経営者として,また管理者として,職場環境づくりのためにさまざまな学びの場に出かけました。その中で得た学びとして,日本キャッシュフローコーチ協会の代表理事 和仁達也氏が提唱する「積み石理論」(図2)を紹介します。和仁氏は常に,「よい場づくりのためには,その場が安心・安全・ポジティブであることが大切である」と説いています。
会議を例にとって場づくりを説明します。素晴らしいアイデアが出る会議というのは,その最終的な素晴らしいアイデアを発言した人だけの成果ではなく,その会議に出席し,発言したすべての人の成果であるというのです。
1番目の人の発言を聞き,2番目の人がさらにその上をいく発言ができ,1,2番目の人の意見を踏まえて3番目の人が意見を言える。そして,時には5番目の人のように的外れな意見を言うということもありますよね。しかし,その的外れな意見を言う人の扱いこそが大切で,その的外れな意見を言う人の意見ですら受け容れてもらえる,発言してもバッサリ切られない場がそこにある。
つまり,「安心・安全・ポジティブ」な場を前提とした会議は,自由に発言ができるため,会議の成果物である素晴らしいアイデアが生まれやすいというわけです。
一見,20番目の人だけにスポットライトが当たりがちですが,実は,1番目,2番目,3番目の人たちがアイデアを積んでくれたおかげで,また5番目の人が的外れな意見を言ってくれたおかげで,20番目の人が素晴らしいアイデアを発言することができたというわけです。1~19番目までの皆の総力で意見が積み上がり,その会議でのよい意見となるということなのです。
※本記事は『達人ケアマネ』2021年2-3月号(vol.15 no.3)の誌面に掲載したものです。
引用・参考文献
1)グーグル社2012年調査「プロジェクト・アリストテレス」
前田麗子●2016年7月居宅介支援事業所「あすなろケアプラン」を開業。ケアマネジャー業務の傍ら,自らの独立のノウハウ,事業所運営ノウハウを基に,2018年より「ケアマネジャーを紡ぐ会」などでケアマネジャーに向けて講演活動を開始。2020年10月より岡崎市議会議員。