
前田麗子
株式会社わがんせ 代表取締役/あすなろケアプラン 管理者 主任介護支援専門員
ケアマネジャーを紡ぐ会 副会長 岡崎市議会議員
第4回
ケアマネジメントの質向上と業務の効率化②
業務の効率化を成功させるための3つの視点
さて,ここからが本題です。ノー残業に向けて当事業所が行っている取り組みについてお伝えします。
ノー残業に向けて最初にやるべき取り組み,それは「残業をしない,させない」ことを事業所全体の意思として決めることです。誰が決めるのか…社長? 管理者? スタッフ?
答えは,事業所にかかわる全員です。全員が納得して「残業をしない,させない」体制をつくることを決めます。そのためには何を捨てて,何を残すのか? 運営基準を満たした業務内容を事業所全体で考えていくところから始めていきます。
そして,業務効率化を成功させるために「①場づくり」⇒「②目標の設定と実行」⇒「③フィードバック」といったサイクルを回していきます(図)。
①場づくり_業務効率化に向けて
個性豊かなケアマネジャーたちの意思統一を図ることは,業務効率化の最初で最大の壁であると思います。ケアマネジャーの多岐にわたる書類作成業務の中でモニタリングを例に挙げて説明します。
支援経過記録一つとっても, Aケアマネジャーはモニタリングの定型文のほかに20行にもわたって記載する。一方, Bケアマジャーは定型文のほかはたった2行。20行書くAケアマネジャーも,2行しか書かないBケアマネジャーもどちらも間違いではありません。
事業所としてどちらの方法を採用するのか? なぜその方法を採用するのか? トップダウンで決めたことを単にやらせるのでは,個性豊かなケアマネジャーは納得しません。
結論から言うと,当事業所のモニタリングの支援経過記録は,【「定型文」+2行】…これを基本としています(資料)。
記載内容は「定型文」とたった2行だけの自由記載ですが,法令には「(中略)特段の事情がない限り少なくとも1月に1回は利用者の居宅で面接を行い,かつ,少なくとも1月に1回はモニタリングの結果を記録することが必要である(以下省略)」とあり,運営基準はクリアしています。
支援経過記録はケアマネジャーの感想文ではありません。それは適正な給付であることを証明した公的な文書です。したがって,支援経過記録は必要な文言が過不足なく書かれていることが大切なのです。
支援経過記録の行数をも効率化していくこと,それに対して抵抗感を感じるケアマネジャーも実際にいます。そこで,ケアマネジャーにとって心理的なハードルを下げるための努力として,事業所内でのミーティングなどを通して何度も対話をしていきます。それが,ケアマネジャーの業務効率化を進めるために最も大切な「場づくり」であると考えます。
②目標の設定と実行_自ら計画を立て,具体的な行動につなげるための社内教育
「その日の仕事をその日のうちに終わらせる」「その月の仕事をその月内に終わらせる」。これが業務効率化のゴールです。
では,「その日の仕事」とは何でしょうか? ここで,事業所内で「その日の仕事」の具体的な定義づけをしていくことが必要となります。モニタリングを例にお話しします。
モニタリング業務とは,運営基準では「少なくとも1月に1回は利用者の居宅で面接を行うこと」かつ「少なくとも1月に1回はモニタリングの結果を記録すること」とされています。そこで,当事業所のモニタリング業務を次のように定義づけしました。
❶ 利用者の自宅へモニタリング訪問し
❷ モニタリング表と支援経過記録にモニタリング結果を記載する
具体的には1日3件ずつコンスタントに回り,22日までにモニタリング訪問を終えるスケージュールを立てる。
つまり,モニタリングにおいて運営基準を満たす「その日の仕事」とは,❶利用者の自宅ヘモニタリング訪問し,❷支援経過記録に利用者のモニタリング結果を記載する。❶+❷をその日のうちに終わらせる…ということです。
事業所内で業務の定義づけを行い,事業所内のケアマネジャー全員が共有し実行できるまで社内教育として繰り返し伝え続けます。
各ケアマネジャーが1力月の業務計画を立てて,計画どおりに行動していきます。計画を立てて実行するのが得意なケアマネジャー,不得意なケアマネジャーがいますが,事業所全体でその月の仕事が終えられるように,フォローし合う職場の雰囲気も必要であると考えます。
③フィードバック_ケアマネジャー同士で仕事に共感と質問を投げかける
業務の効率化を実行するために,まずは職場内の場づくりが大切であること。次に,業務計画を立てて実行できるための社内教育が大切であるとお伝えしました。
3つ目は,フィードバックです。それが実際に実行されているのか,皆がストレスなく行えているかを管理者として確認していかなければなりません。
フィードバックの方法のーつとして,当事業所では「事業所内でのケアプランチェック体制」を利用しています。認定更新,ケアプラン変更,短期目標更新のたびにケアマネジャー間で担当する利用者のケアプランを相互にチェックします。
こういったことを日頃から行うことで,実地指導前に慌ててケアプランを見直さなくて済む体制をつくることができます。加えて,ケアプランの提出が滞っているケアマネジャーは,仕事が滞っているということが分かります。
事業所内でのケアプランチェックのやり方はまた別の機会にお伝えしますが,事業所内で常にケアプランチェックを行う体制をつくることで,❶事業所内のケアマネジャーのレベルをそろえることができる,❷作成した書類の内容を均一化することができる,❸業務の滞りを発見できる…というメリットがあります。
フィードバックは,ケアプランチェックのほかにもミーティングなどの機会にも行いますが,フィードバックの目的は単に相手を批判,評価することではありません。在籍するケアマネジャー同士の仕事のやり方に対して共感し,相互に質問を投げかけていくことだと考えます。
そして再び業務効率化の最初のステツプに戻リ,場づくりをしていきます。
ノー残業を実現するための業務効率化をさらに進めるためには,どうしたらよいのか? 業務で何を残し,何を捨てるのか? この繰り返しが,運営基準を満たしたケアマネジメントを行いながらも,残業をしない,させない職場づくりへとつながるのです。
居宅介護支援事業所にエースで4番はいらない!
私が好きではない言葉に,ケアマネジャーが使う「私の利用者さん」という言い回しがあります。
「私の利用者さん」という言葉に違和感を感じるのは,介護保険におけるケアマネジャーは,いかに利用者の自立支援を助けることができるかが大切であり,担当ケアマネジャーに依存させないで済むよう,ケアプランで調整しきることだと考えるからです。
質の高いケアマネジメントとは,言い換えれぱ,「明日,担当アマネジャーが突然代わっても,利用者が全く困らない状況をつくること」なのではないでしょうか?
仕事を属人化させないこと,つまり,ある業務を特定の人が担当し,その人にしかやり方が分からない状態にさせないことです。事業所内において業務を標準化することが大切であり,担当ケアマネジャーが有給休暇や長期休暇を取得しても,事業所内の代わりのケアマネジャーが処理できる状態をつくっておくことが必要です。
事業所内の支援経過記録に定型文を準備しておくのはそのためです。書類作成においてエースで4番は必要ないのです。全員野球ができること,事業所内の全員でフォローし合いながら仕事ができる体制をつくることが大切だと思います。
このような取り組み方で,当事業所はノー残業を実現させています。これは働き方改革の一環でもあり,これからの社会におけるーつの事業所のあり方なのではないかと思っています。
※本記事は『達人ケアマネ』2020年10-11月号(vol.15 no.1)の誌面に掲載したものです。
前田麗子●2016年7月居宅介支援事業所「あすなろケアプラン」を開業。ケアマネジャー業務の傍ら,自らの独立のノウハウ,事業所運営ノウハウを基に,2018年より「ケアマネジャーを紡ぐ会」などでケアマネジャーに向けて講演活動を開始。2020年10月より岡崎市議会議員。