Free_多職種連携のための実践知

木村和弘

NPO法人エナガの会 副代表理事/社会福祉士

第2回

医師との「つながり」をつくるために必要なこと②





支援方法の見立てを語る

 次に,支援方法の見立てを説明しました。



 この母親のADLや認知症の状況ならば,施設の受け入れはスムーズにできそうです。認知症専門棟の準備も必要ありません。穏やかな人なので,ほかの利用者ともすぐになじみそうです。食生活や排泄ケアの状況を整えるためにも,また下肢筋力向上のためにも,老健の利用は適切です。



 私は,息子さんの強気だが疲れのある表情から,きっかけさえあれば施設への入居は可能だろうと考えました。そこで,施設でのサービス利用時の息子さんの対応は私だけが窓口になり,ほかのスタッフとは接点をつくらない方法を考えました。そうすれば,施設で余計なトラブルが発生せず,スムーズな利用ができます。



 ここで私が話した内容は,ケアマネが行う初回訪問,いわゆるインテーク面接におけるアセスメントの内容とその判断根拠です。それを,実際の対応どおりに順を追って説明しました。このような対応は,ケアマネであれば周知のことです。しかし,医療職にはそうではありません。医師たちにとっても新鮮だったようです。熱心に話を聴いてくれました。



相談援助面接の醍醐味を伝える

 次に,息子さんの心をつかむ会話について説明しました。私は施設利用につなげるつもりですが,いきなりその話はしません。足を組んでじっと見てきたり,小さな威圧を繰り返したりと,初対面の息子さんは強い警戒感を持っていたからです。そこで,介護とは関係のない会話から始めました。まずは,「閉ざされた質問」から入ります。反応は良くないのですが,だんだん返答してくれるようになりました。そこで,「開かれた質問」につなげます。



 この様子を見ていたケースワーカーは,私がなかなか本題に入らないのでじれったそうにしていましたが,これは息子さんとの距離感をつかむための大事なプロセスです。私は,息子さんの世界に入ろうとしていました。呼吸のリズムや会話のトーンなどを合わせながら,私は息子さんの前にある「見えないカーテン」をくぐり,息子さんの世界に入るイメージで接しました。「見えないカーテン」は私が勝手に命名したものですが,皆さんも,拒否が強い人と接している時,相手との間に「見えない壁のようなもの」を感じたことはないでしょうか。例えるならそれです。



 これは文字では表現しきれないかもしれませんが,実習生などを同行訪問させると,後で「木村さんがご家族と一体化していました! 溶け込んでいました」などと言います。専門用語で言うと「波長合わせ」が近いと思います。



 10分ほど話したころ,「ワシもしんどいんや!」と息子さんが言いだしました。私は,『きた!』と思いました。即座に「分かります。介護大変だと思います」と受け止めると,「そうや,けっこう大変なんや!」と息子さん。『完璧にきた!』と心の中でガッツポーズです。この時を待っていました。私は,「どうですか? 私は介護施設の者ですが,ちょっとでもいいから私のいる施設を利用してみませんか?」と切り出します。息子さんの反応は「え?」といったものでしたが,いけそうな反応でした。



 私は,ケースワーカーに目でサインを送り,「大丈夫ですよね。施設入れますよね」と尋ねました。ケースワーカーは「はい,大丈夫です。介護券,すぐ準備します」と答えます。この言葉はかなり効果がありました。息子さんの表情が『いけるのか?』という感じになっています。ケースワーカーが同行してくれてよかったと,心底思いました。



 仕上げはケアマネです。「お世話になったらいかがですか? その方がいいと思いますよ」と語りかけます。ケアマネは母親との関係をしっかりつくっていますので,母親がゆっくりとうなずきました。息子さんは,その様子を黙って見ていました。



 この後のことは省略しますが,紆余曲折の後,2時間後には家を出てサービス利用につながりました。



 医師たちには,このやりとりを一人芝居のように伝えました。相談援助面接の技法,心理的なやりとり,ある種の駆け引きなど相談援助の醍醐味を伝えようと,思わず熱くなりました。



認知症による不穏へのアセスメント方法を語る

 最後は,認知症の基本を伝えながら,不穏になる原因やそのアセスメント,BPSDの出現タイプについて伝えました。これは,竹内孝仁氏の著書『介護基礎学』1)や『ケアマネジメントの職人』2)から学んだ内容です。これについては独自資料()を作成し,内容はほぼ暗記しています。






 具体的には,認知症の状態を判断するための「4つのスクリーニング」を伝えました。4つのスクリーニングとは,①環境不適応群,②知的衰退群,③身体不調群,④BPSD群のことです。④BPSD群には,葛藤型,遊離型,回帰型があること,それらの状態,観察ポイント,対応方法を簡単に伝えました。医師たちにとっては耳慣れない内容だった様子ですが,スクリーニングや観察ポイント,対処法という流れは理解しやすかったようです。



 

 最後は,認知症の相談機関と連絡先を伝えて講座を終了しました。医師会館の空気感はすっかり変わり,大きな拍手をいただきました。



その後,180度の変化が…

 後片付けをしていると,数人の医師が声をかけてくれました。「認知症の疾患としての話は聞き飽きていたが,今日の話は新鮮だった」「君たちはいつもこんなかかわりをしているのか?」「往診しても家に入れてくれない人がいる。参考になった」といううれしい言葉。また,「うちの病院でもこの話をしてくれないないだろうか?」とも言われました。



 私はこう話しました。「ケアマネや社会福祉士は,みんな少なからずこういう対応をしています。今日の話はその一端です。すごく活躍しているケアマネがたくさんいますので,連携できたらと思います」。



 この日から,開業医との関係は180度変わりました。数人の医師からは,患者さんの対応について直接,電話をいただくようになりました。また,多職種連携の会議や研修準備の場にメンバーとして呼ばれるようになり,現在のNPO活動につながりました。



(③へ続く)



※本記事は『達人ケアマネ』2024年4-5月号(vol.18 no.4)の誌面に掲載したものです。





引用・参考文献

1)竹内孝仁:介護基礎学,医歯薬出版,1998.

2)竹内孝仁:介護科学シリーズ ケアマネジメントの職人 完全版―竹内式ケアマネジメント技術論,年友企画,2007.

木村和弘社会福祉士,介護支援専門員。介護老人保健施設の支援相談員として18年勤務。現在は,大学・専門学校で非常勤講師をしながらNPO法人エナガの会にて多職種連携を促進するための地域活動を実施している。