
木村和弘
NPO法人エナガの会 副代表理事/社会福祉士
第1回
医師との「つながり」をつくるために必要なこと①
私は長年,介護老人保健施設(以下,老健)の支援相談員をしていました。現在は,地域で多職種連携を促進する活動をしています。本連載では,地域での実践の中で得た「多職種連携のための実践知」,具体的には,他職種とのつながりづくりのコツを紹介したいと思います。
まずは,「医師とのつながり」についてです。医師とのつながりをつくるために必要なのは「このケアマネは頼りになる! 連携すべき相手だ」と医師に思われることです。そんな機会があまりないから困るのですが,実は仕事ぶりは結構見られています。また,「良いケアマネさんはいないか?」と常に思われていたりもします。
医師とのつながりづくりのきっかけとなった約10年前の体験を次に紹介します。
医師との関係が変わった瞬間~何がそうさせたのか~
◆つながりづくりを模索した日々…
多職種連携の第一歩は,つながりづくりです。そこで一番苦労したのが,開業医とのつながりづくりでした。
病院はMSWが窓口になってくれますが,開業医のクリニックにMSWはまずいません。老健ではショートステイを多く行っていたので,開業医との連携が不可欠でした。電話をかけても診療中は忙しくてつながらず,電話をかけることさえ躊躇するようになり,結局電話をかけることはなくなりました。
クリニックに送るサービス利用報告に手紙をつけますが,反応はありません。開業医から直接電話がかかってきた!…と思ったら苦情の電話で,しかも,結果は単なる誤解によるもの…。うまくコミュニケーションがとれたら…とつくづく思いました。
開業医に対して苦手意識だけが強まり,ハードルは高くなりました。多職種連携の阻害要因にはこのような「心理的な壁」があり,それを克服するためにはコミュニケーションの機会が必要とされていますが,そんなチャンスはありません。
◆ある日,突然にチャンスが! 医師に認知症を伝える!?
そんな時,社会福祉協議会から「誰も予定が合わなくて…」と認知症サポーター養成講座の講師の依頼がありました。私が「やりますよ」と答えると,「いいんですか!?」と,とても喜んでくれました。
ところが,「ちなみに,どこでやるんですか?」と尋ねると,「医師会です」という答え。医師に認知症の講義をする…これは躊躇します。すると,「クリニックの看護師さんや事務員さんも受講するので」とのこと。それならば,これを機にクリニックとのつながりができるかも! そして,あわよくば医師とも…。「つながりづくりのチャンスは逃さない」,それが私の行動基準でした。
◆医師に認知症困難事例の体験談を語る
今回の講座は医師会の行事後の開催だそうで,参加者は40人程でした。しかし行ってみると,事務員や看護師の姿はどこにもありません。どう見ても医師ばかり…。しかも,「何の勉強?」「認知症サポーター?」「講師はケアマネ?」「役に立つの?」と,さまざまな声が聞こえてきます。とても困りました。
私はとっさに,在宅支援の困難事例「サービスを拒否する認知症高齢者への支援」について話そう! と思い立ちました。ちょうど往診を始めた医師が多い時期でした。「これなら聞いてくれるかもしれない。ついでに,我々が行っている在宅支援についても知ってもらおう」と考えたのです。こうして,講義の冒頭で事例のタイトルを告げると,医師たちの顔が一斉にこちらに向きました。
その事例は,知り合いのケアマネから相談を受けたものです。認知症の母親とアルコール浸りの息子さんの2人家族でしたが,息子さんの暴言でヘルパーの辞退者が続出。とうとう一番多く入っていたヘルパーも辞めてしまい,在宅支援が行き詰まりました。ケアマネは母親を施設に入所させたいようですが,息子さんに拒否されたとのことで,「なんとかできませんか?」という切実な相談でした。
講義では,訪問時の一部始終をお話しし,医師たちに苦労を知ってもらおうと思いました。玄関の前に立った時の緊張感,深呼吸してからケアマネがチャイムを鳴らしたこと,ドアが開き息子さんがぬっと顔を出したこと。そして,ケアマネの後ろに私の姿を見つけ「なんやお前は!」と罵声を浴びせてきたこと。ドアが閉められそうになった時は,とっさに同行していた生活保護ケースワーカーが前に出て中に入る許可をとったこと…。私は,その時の情景が目に浮かぶよう,細かく話しました。
この訪問にあたって私が提案したことの一つは,ケースワーカーの同行です。訪問拒否は予想できましたので,保護費にかかわるケースワーカーが同行すれば,少なくとも話は聞いてくれるだろうと考えたのです。ケースワーカーも困っていたのでしょう。忙しい中,予定を合わせて同行してくれました。私がそうした経緯と共に「一人では訪問せず,その人に影響力のある人に協力を求めます」と伝えると,医師たちは大きくうなずいてくれました。
◆五感を使ったアセスメントを語る
室内はビールの空缶と弁当のごみであふれていました。食事は摂っているようですが不衛生です。息子さんは缶ビールを飲みながらいすに腰かけ,足を組み,こちらをじっと見ています。言動はキツく,威圧感があるため,テーブルに缶を置く音だけで思わずビクッ!とし,ヘルパーの心労がよく分かりました。
一方の母親は,床に座っていましたが,ゆっくり話をするためにベッドに座り直そうとしました。ベッド柵につかまってよろよろと立ち上がり,ベッドにドスンと腰を下ろす様子からは,下肢筋力の低下がうかがえました。
母親は穏やかな人で,私があいさつをして名前を名乗ると,丁寧に応答してくれました。私は,「介護のお手伝いをしたいので,いろいろとお話を聴かせてください」と言い,続いて,記憶障害の程度を把握するために,さりげなく生年月日と年齢を聞きました。生年月日は正しく言えましたが,年齢は数年ずれていました。ここから,長期記憶はしっかりしているが,短期記憶はあいまいなことが分かりました。そのほか,会話の端々から,「想起」が難しいことも分かりました。
「このように,HDS-Rなどを実施しなくても,自然な会話の中で記憶障害の程度が分かります」と伝えると,医師たちがいっせいにメモを取るのが見えました。
次に,私が訪問先で「気になったこと」を伝えました。
まず,尿臭がしていたことです。絨毯も少し湿っており,失禁があるようです。ベッド横には,リハビリパンツの袋が無造作に開けられ積まれていました。また,木製のポータブルトイレがベッド横に設置されていました。物品は揃っていますが,排泄ケアには課題がありそうな様子でした。
息子さんの介護には不十分なことが多いようですが,言葉の端々からは母親を気遣っていることがうかがえました。どちらかと言うと,母子密着とも言える様子です。もっとサービスを入れたり,生活状況を変えたりした方がよいのに,変えようとしないその根底には,こうした親子関係が影響していると考えました。また,息子さんの言動は強気ですが,本当は介護疲れもあるのでしょう。息子さんの表情や目つき,口調の端々から疲れが感じられました。
私は,このように訪問先では五感をフル活用して観察していることを伝えました。そして,そこから何を判断したのか,その根拠もできるだけ伝えました。医師たちのメモが進みます。かなり真剣な感じになってきました。
(②へ続く)
※本記事は『達人ケアマネ』2024年4-5月号(vol.18 no.4)の誌面に掲載したものです。
木村和弘●社会福祉士,介護支援専門員。介護老人保健施設の支援相談員として18年勤務。現在は,大学・専門学校で非常勤講師をしながらNPO法人エナガの会にて多職種連携を促進するための地域活動を実施している。