独立行政法人医療福祉機構の集計(社会福祉法人の現況報告書等の集約結果【2019年度版】)※1によると、社会福祉法人の事業費比率、事務費比率、人件費比率について次のように報告されています。

事業費比率および事務費比率については、経費として占める割合はそれほど高くありません。その一方で、人件費比率は全国平均で67.1%、中央値は70.4%という非常に高い割合になっています。ここから、人件費の適正化が施設運営にとっていかに重要であるかが分かります。
また、人件費比率のみ中央値が全国平均より高くなっていますが、これは、「人件費が入居者数と比例せず、手厚い配置になっている施設が多い」ということを示しています。
このような状況には、「入居者の満足度が上がる」「職員一人の業務負担が減る」などのメリットはあります。しかし、このまま人件費比率が上がり続けると経営が立ち行かなくなります。このバランスがとれず、実際に給料の遅配や未払いなどが生じている施設もあるのです。
施設運営には人件費以外にも多くの経費がかかります。例えば、人件費に圧迫されて建物の修繕ができなかったり、借入金や利息の返済ができなくなったりなどという困った事態に落ちってしまうことも考えられます。
人件費比率が自然に適正化されることはないので、関連するデータを毎月チェックし、人員配置の効率化や入れ替え計画を立てる必要があります。
では、なぜ施設運営において人件費比率が高くなっているのでしょうか?
この原因として考えられることは、大きく分けて3つあります。
1)社会福祉法人の経営においては、人材の効率化や有効活用の意識が薄い
2)人材不足により残業代の支払いや人材紹介の手数料が増加している
3)離職を意識するあまり人員配置が手厚くなり、適正にコントロールができていない
また、2025年問題においては、高齢者人口の増加に伴う労働力不足への対応が急がれています。
介護現場はすでに人材不足に陥っており、技能実習による外国人の活用も期待されていますが、それも叶わずに事業の譲渡や廃止に至るケースが現実に起きています。人材不足解消や離職防止に向けた持続可能(サステナビリティ)な中長期計画が求められる中、決定打がない状況で、思い悩んでいる経営者も多いのではないでしょうか。
介護施設においても、適正な経費比率による健全経営が求められます。しかし、本稿の冒頭でも触れた人件費比率は、年々増加しているようです。特に地方の法人では、人件費比率が80%近くとなり、経営が逼迫しているケースも多くみられます。
このような状況を改善するためには、「正職員は直接介護、パート職員は間接業務を主体とする」といったような業務内容の見直しも含め、仕事の分業化から正職員とパート職員のバランスを図り、人件費比率を適正化していくことが必要です。
また、一般企業と同じように新卒の新入職員を採用し、長く勤務するベテラン職員とのバランスを取って人件費率を標準化(全国平均65%前後)していく必要もあるでしょう。
週休3日制の導入は、職場環境の整備だけでなく、若い世代の入職につながるアピール材料にもなり、人件費比率の適正化へとつながります。そこで、今回は「人件費の効率化」をテーマに、週休3日制導入のメリットをお伝えしていきたいと思います。
①日勤のパートを効率的に配置できる
〈週休2日制の場合〉
・3交代制では早番と遅番が重複する時間が少なく、特に午前中は人員が薄くなりがち
→日勤のパートをユニットごとの固定配置とすることが多く、ユニットを掛け持ちしたり、
他ユニットへ手伝いに行ったりできるような効率的な配置が難しい
〈週休3日制の場合〉
・早番と遅番が重複する時間が増えるため、日勤のパートを固定配置しなくても業務が回るようになる(連載第3回参照)
→日勤のパートをフリーで配置し、他ユニットの応援に回す余裕ができる
→全ての業務が時間内に終わるため、残業代が削減できる
・場合によっては早番、遅番、夜勤の正職員のみでも業務を回すことができる
→日勤のパートを無駄に常時配置するのではなく、施設行事や病院受診、入浴介助などで
人員が必要な時だけ配置できる
②人材の適正化が図れる
〈週休2日制の場合〉
・3交代制では1人で業務にあたる時間が多く、「身体的にも精神的にもきつい」という介護職経験者の声が広がっている→離職の増加や就職希望者の減少を招いている
・介護職に対し、「危険」「汚い」「給料が安い」「休日がない」「ストレスが溜まる」などのイメージを持っている人が多い
→マイナスイメージを変えることができず、学生が就職先を検討する際に両親や親族、友人などが
反対するケースも多い
・勤務時間内では人手が足りず、人材育成が進まない
→人材育成をするためには、職員を余分に配置しなければならない
〈週休3日制の場合〉
・新卒者の仕事選びでは、「休日が多い」ことが重要視される傾向にある
→週休3日制では月に12~13日、年間では144~156日が休日となる(連載第2回参照)
→福祉系学校の新卒採用や中途採用(経験者、未経験者含む)に向けたアピール材料となる
・複数で業務にあたる時間が増え、職員の負担が減り、OJTに取り組む余裕ができる(連載第3回参照)
→全体的な介護スキルが向上する
→少数精鋭での人員配置が可能となり、人件費比率が下がる
→職員個々がスキルアップに取り組む時間が確保できるため、さらに人材が適正化されていく
・施設での育成を前提とした無資格者や未経験者、外国人人材などの採用も可能となる
→人件費比率が下がる
③ 残業代が減る
〈週休2日制の場合〉
・各勤務帯の時間内では業務が終わらないことも多い
→毎日約2時間程度の残業が発生している施設もある
→残業の主な原因は「記録」と「適正な人員配置ができないこと」にある
例)3交代制では人員の都合により午後からの入浴になるケースが多く、残業も発生しがち
→入浴の時間や回数を制限したり、必要のない入居者まで機械浴に移行してしまったりする
ケースも出ている。また、入浴時間を十分に取れないため、流れ作業になりやすい
・特に16時間夜勤の場合、業務が終わらずそのまま退社することに罪悪感があり、残業に至るケースが多い
→サービス残業も含めると、さらに人件費比率が上がる
〈週休3日制の場合〉
・複数で業務にあたる時間が増え、職員の負担が減り、時間内に業務を全て終えることができる
→サービス残業も含め残業が減り、人件費比率が下がる(連載第3回参照)
例)入浴介助は午前中でほぼ終わる
→午後の入浴にも対応できるようになり、介護の質も上がる
・緊急対応時を除き、早番、日勤、遅番、夜勤すべての勤務において定時に退社ができる
【週休3日制の成果】



④給与の適正化が図れる
〈週休2日制の場合〉
・施設に特別な魅力や特徴がないと人材確保ができない
→給与だけで他の施設と競争しなければならない
→人材派遣や紹介業者を活用したりすることも多く、人件費比率が上がってしまう
・人材の質より人手としての採用が優先される
→人員確保のために多少問題が有っても採用をしなければならない現状がある
→業務に余裕がなく、人材育成にあたる時間が確保できない
→入居者や家族に不適切な対応をしてトラブルになるケースが増える
・結果として短期間で離職していく
→補充のための採用コストも必然的に上がっていく
→負のスパイラルに陥り、体制や仕組みを変えないと何年たっても抜け出せない
〈週休3日制の場合〉
・「介護職=3K」というイメージを払拭し、施設のブランディングにもつながる
・職員の満足度が高まり、良い口コミが広まる
→求職者が増える
→質の高い人材や必要な人材を選び、適正な給与で採用できる
・人材や給与の適正化は、施設の稼働率向上につながる
→売上や利益がアップすると、相対的に人件費比率は下がる
・利益を職員に還元することで定着率が上がる
→採用コストが抑えられ、結果として人件費比率も下がる
→適正な人員配置による安定経営の実現にもつながる
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近頃、障害者施設や保育園などへの週休3日制導入を検討している法人から、悩みや質問を受ける機会が増えてきました。一般企業や介護施設だけでなく、その裾野は確実に広がっています。
さて、次回からは、筆者が週休3日制の導入にかかわり、現在順調に運営している施設の声や経験を基に、Q&A形式でその実際をご紹介していきたいと思います。2021年1月より週休3日制を仮導入、同年4月より本導入を予定している施設からも、現在進行形の疑問や質問を受けていく予定です。よりリアルな情報をお届けできるかと思いますので、どうぞご期待ください。
〈事例提供・取材協力〉
※希望により、一部イニシャル表記としております。
介護老人福祉施設 松風 http://www.heisei-kai.jp/
社会福祉法人徳誠会 春輝苑 http://www.syunkien.com/
宇都宮市の介護施設K
大田区の介護施設C
横浜市の介護施設S |