
鐵 宏之
合同会社鐵社会福祉事務所 代表社員/てつ福祉相談室 管理者
主任介護支援専門員 社会福祉士
第1回
ケアマネジャーにとっての記録とは①
「記録が大事,記録が大切」。ケアマネジャーの皆さんは,さまざまな場面で言われてきたのではないでしょうか。なぜ大事なのかということは,その発言をする者の立場やその場面によって異なります。しかし,そもそもの記録の意義や役割が曖昧な現状があるのではないでしょうか。
同様に,記録の書き方についても,それを伝える者の立場によって異なるでしょう。代表的な伝え方の例では,「5W1Hを意識して書くように」というものがありますが,具体的な書き方の説明としては曖昧です。
そして,記録の活用とそれによって得られる効果についてはほとんど示されていません。本連載では,記録の意義や役割,代表的な記録法の紹介および生活支援記録法の紹介,生活支援記録法の習得や活用,事例を紹介しながら,記録の活用についてお話ししていきます。
なお,ここで用いる記録は第5表の居宅介護支援経過(施設では第6表)を指します。
ケアマネジャーの記録の現状
何が適切かについては,その記録を見る者の立ち位置によって変化します。そのため,私が示す考えについても絶対ということではなく,一つの参考としていただくとよいかと思います。私は「よい記録」とは,①支援のための記録,②情報共有ができる記録と考えています。
介護保険法における居宅介護支援の根拠
居宅介護支援における記録の根拠通知として老企29号(平成11年11月12日厚生省老人保健福祉局企画課長通知第29号)があります。そこには,「モニタリングを通じて把握した,利用者やその家族の意向・満足度等,目標の達成度,事業者との調整内容,居宅サービス計画の変更の必要性等について記載する。漫然と記載するのではなく,項目毎に整理して記載するように努める」と記載されています。
介護保険制度が始まり20年以上が経ちますが,制度創設期の通知は現在も変更されておらず有効なものです。この点をケアマネジャーはまず理解する必要があります。
実務者研修テキストの内容
介護支援専門員実務者研修で使用されるテキストである『六訂居宅サービス計画書作成の手引』(長寿社会開発センター)には,「居宅介護支援経過は,介護支援専門員が専門職として残す記録です。この第5表は,介護支援専門員として利用者・家族,各種サービス担当者,関係機関との専門的な関わりを通じて把握したこと,判断したこと,調整が難航し持ち越したことなどを整理してわかりやすく記載しましょう。単に支援が継続していることの確認だけでなく,常に総合的な援助の方針,ニーズ,目標,サービス内容など居宅サービス計画の進行状況と目標の達成度,居宅サービス計画の見直しの必要性が生じているか確認する視点が大切です」と記載されています。
根拠通知である老企29号を踏まえたものであり,どちらも「整理して分かりやすく記載する」「漫然と記載しない」こととしています。
バラバラな記録の書き方
私は埼玉県介護支援専門員更新研修(専門Ⅰ・Ⅱ)のファシリテーターとしてかかわっているほか,各地のケアマネジャーに向けて生活支援記録法の勉強会を開催していますが,ケアマネジャーの記録はどれも個性的です。長文で出来事を中心に書く方もいますし,1~2行程度の短文の方もいます。利用者や家族の言葉やそのやり取りを書く方もいます。
しかし,すべて読まなければ内容が分からない記録,情報量が不足している記録,ケアマネジャーがどのような実践をしているのか,その根拠が分からない記録ということは多くの場合に共通しているように思えます。
なぜ,このような現状になっているのでしょうか。私なりに考察してみます。
基礎資格における記録の学びの機会がない
少し古い資料になりますが,「平成28年3月16日介護給付費分科会資料 居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業」では,介護支援専門員の保有資格について,制度創設期において割合の多かった看護師が9.6%まで減少し介護福祉士が59.3%へ増加,社会福祉士も11.1%まで増加しており,介護福祉士と社会福祉士を合計すると70%を超えるとされています(全数調査ではない)。
介護福祉士養成カリキュラムでは,介護過程において「思考の文章化」「実践のプロセス」を意義として記載されています。書き方として①正確で客観的,②他者に伝わりやすくする,③サインや捺印とされています。
社会福祉士養成カリキュラムにおいては,相談援助の過程にそれぞれ記録についての項目があります。このテキストでは,客観のみでは事実の羅列の記録になり,事実の背景を憶測すると主観が中心になるため,その両立が必要であることを述べています。書き方としては,①5W1Hを踏まえて記載すること,②内容によって記録の形式を変えること,③事実を書くこと,④計画に沿って必要なもののみを書くこと,⑤意図的な働きかけと反応を書くこと,⑥社会的責任を自覚することを挙げています。
テキストによる違いはありますが,介護福祉士,社会福祉士どちらも記録の意義や目的を示しています。しかし,どちらのテキストでも具体的な書き方は示されていません。これは,介護や福祉分野には標準的な記録法が存在しないためです。対して,医師や看護師においては標準的な医療記録として問題志向型記録(POR=Problem Oriented Record,SOAP記録)やフォーカスチャーティング®が教育段階で導入されています。最近では,薬剤師の薬歴としても導入されるようになっています。
介護職,福祉職は,記録の意義は示されているものの,記録法がないために書き方を学んでいない状況で現場経験を積みます。職場においても,記録の書き方が分からない上司や先輩に教わることになります。このような要因が介護,福祉分野に存在していると思われます。
介護支援専門員の法定研修における記録の取り扱い
介護支援専門員の法定研修には,記録に関するカリキュラムは存在しません。これは実務者研修,専門Ⅰ・Ⅱ研修,主任介護支援専門員研修においても同様と言えます。
基礎資格を用いての実務段階で記録の書き方が曖昧であり,さらに居宅介護支援においても記録の意義や役割,書き方が分からない状態が続き現在に至っていることが,ケアマネジャーの記録がバラバラなことに拍車をかけているのではないでしょうか。
また,実地指導やケアプラン点検において,行政側が老企29号を踏まえず指導しやすい記録の書き方を指示している可能性もあります。具体的には「利用票交付」「○○加算を算定」のような文言です。「自立支援」という文言を記録に盛り込むよう指導している行政もあると聞いたこともあります。もちろん,運営基準や加算の算定要件に適合しているかどうかを示すことも記録の役割としては重要です。しかし,ケアマネジメント実践の証明としての記録の意義や役割が軽視されているのではないかと感じます。
引用・参考文献
1)長寿社会開発センター:六訂居宅サービス計画書作成の手引,P.23,24,長寿社会開発センター,2018.
2)介護福祉士養成講座編集委員会編:最新介護福祉士養成講座9 介護過程,P.4,71 ~73,中央法規出版,2019.
3)福祉臨床シリーズ編集委員会編:相談援助の理論と方法〈2〉―ソーシャルワーク,第2版,P.110 ~125,弘文堂,2014.
4)介護支援専門員実務研修ガイドライン,2016.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2016.11JITSUMUKENSHUGAIDORAIN_3.pdf(2019年12月閲覧)
5)介護支援専門員専門研修ガイドライン,2016.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2016.11SENMONKENSHUGAIDORAIN_3.pdf(2019年12月閲覧)
6)主任介護支援専門員研修ガイドライン,2016.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2016.11SHUNINKENSHUGAIDORAIN.pdf(2019年12月閲覧)
(②へ続く)
※本記事は『達人ケアマネ』2020年2-3月号(vol.14 no.3)の誌面に掲載したものです。
鐵 宏之●2004年3月日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科卒業。知的障がい者施設の支援員,有料老人ホーム介護職員,デイサービスおよびショートステイの生活相談員,管理者を務め,2011年3月介護支援専門員を取得。2012年9月より居宅介護支援事業所にて勤務。2018年2月新座市で独立型居宅介護支援事業所の「てつ福祉相談室」を開設。埼玉県介護支援専門員更新研修ファシリテーター,介護職員初任者研修講師,ケアマネジャー向け研修,株式会社ウェルモのCPA(AIを使ったケアプラン作成)のアドバイザー,産業ケアマネジャーを行う。生活支援記録法との出合いは2016年5月,埼玉県立大学IPW専門職連携講座に通っている際に,開発者である嶌末准教授から「鐵さん,これ面白いからやってみて」と渡された1枚のA3用紙に書かれた記事がきっかけ。2018年1月より,現場向けの学びの機会が必要と考え独自のプログラムを考案,各地で研修や勉強会を始める。2018年1月~2019年7月時点で全国30カ所,1,000人以上の医療,介護,福祉,教育関係の専門職に生活支援記録法の勉強会を開催。