
村瀬崇人
まごころステーションすくらむ 代表
主任介護支援専門員/社会福祉士・精神保健福祉士
第1回
AIは介護支援専門員の業務を変えるのか?
AI(Artificial Intelligence:人工知能)は、私たちにとって急速に身近なものになってきました。介護分野においても、AIがケアマネジメント業務あるいは介護業界全般にとって大きな助けになることがさまざまな形で示唆されています。
しかし、このAIについて私たちはどの程度知っているでしょうか? 社会を大きく変えるほどの可能性を持った技術として注目される一方で、現実の社会問題につながる大きな課題も指摘されています。AIに限らず、テクノロジーの発展が私たちの生活を豊かにするために大いに役立つことを私たちは知っています。しかし、その弊害が社会にとって深刻な打撃になることがあることも歴史は教えてくれています。
ケアマネジメント業務におけるAI活用はすでに始まっています。そして今後は、その展開をより速めていくでしょう。だからこそ、私たち専門職には「ケアマネジメントとAI」について多角的に検討し、その技術が、人間にとって、そして社会全体にとって有益であり続けるための視座を持つことが求められています。
私たちが理解しておきたい「AI」というもの
私たち介護支援専門員の多くが自分たちの仕事に直接的にかかわるAIとして認識しているもの、つまり記録や帳票の作成補助などを通じてケアマネジメント業務の効率化に役立つとされるツールですが、そもそもこのAIの概念を非技術者である私たちが正確に理解したり、記述したりするのは非常に困難です。しかし、その活用が多くの介護支援専門員にとっていよいよ現実になってきた以上、最低限の理解は重要かと思います。
例えば、2025年に我が国で施行されたいわゆる「AI法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)においては、次のように定義されています。
「人工知能関連技術」とは、人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術」(第二条)
そして、難解な技術的説明を避けながら私たちが最低限理解しておくべき水準を考えると、このAIというものは基本的に「事前に学習されたものやwebで参照できる膨大なデータからパターンを解析し、ユーザーの入力に対する『統計的にもっともらしい』返答を出力する技術(LLM=大規模言語モデル)に主に依拠している」ということではないでしょうか。
注意が必要なのは、この「統計的にもっともらしい」という考え方です。LLMが行っていることはあくまでパターンの解析、平たく言えば、大量のデータの中から最も正解に近そうなものを探しているにすぎませんので、例えば確たる根拠や証拠をもって答えを出力しているわけではありません。それはどこまでも、「確率的に正しい」という推測の域を超えることはありません。
ただし、その解析と推測に使われているデータ量があまりに膨大であるため、一般的に無料で使用できるようなLLMでさえもその精度が「いかにも真実らしい」ものになっている。そして、その能力はますます向上しており、人間の専門家が書いたのではないかと見間違うような、高度な内容を自然な文章で生成(出力)することも可能になっているということです。
ここには、常に「AIの出力をどこまで信用していいのか」という問題が横たわりますが、一方、この技術を基盤として開発された介護分野のケアマネジメント業務に特化させたような製品(筆者もいくつかの「ケアマネジメントAI」と呼ばれる製品のデモンストレーションに参加しました)の機能を実際に目の当たりにすると、その有用性に驚かされます。個々の製品の機能はさまざまでしょうが、一般的に整理すると次のようなことが十分に可能です。
①音声データ(担当者会議や面談の録音記録など)からの文字起こし
②特定の様式などに従って入力したアセスメント情報の整理や文章化
③ケアプランの内容や文言の提案
④ユーザー(介護支援専門員)の考えの整理やスーパービジョンの補助
⑤PDFや画像データの取り込み、変換、再出力
ある種の「疑い」は残しながらも、実際に製品を見てみると、非常に高度な性能を目の当たりにする…これが、私たちの目の前にある「AI」です。
【コラム】
僕と猫の雨宿りとAI
筆者が自転車を漕いでいたら、不意に雨が降ってきました。とりあえず近くにあった店舗の屋根の下で雨宿りをしていたら、たまたまそこに一匹の猫がやってきましたので、しばらくそこで猫と一緒に雨が止むのを待っていました。
スマートフォンに入っているAIに頼めば今自分がいる場所の天気予報を確認することもできますし、雨が降るという自然現象のメカニズムを詳細に論じてもらうこともできます。ただ、それも確率に過ぎません。雨の音を聞き、においを感じ、現実に雨粒を見ているのは僕と猫だけで、AIはその世界にはいないのです。
AIが介護支援専門員の業務を変える可能性
AIの活用がケアマネジメント業務にとってどの程度有益なのかを定量的に示す研究は、すでにさまざまなものが出ています。
例えば、日本在宅ケア学会誌(2023)の「ケアプラン作成支援AIを活用したケアマネジメントの展望」1)では、39名の介護支援専門に対するケースタディ方式による効果検証研究において、AI活用によるケアプラン作成時間の削減(新規ケースの第二表原案作成時間が約3~4割削減)や、負担軽減効果(約6~7割の介護支援専門員が業務負担効果や新たな気づきを獲得)が確認できたことが示されています。
また、令和6年度に静岡県において実施された「ケアマネジメント業務AI導入支援事業」の実施成果2)からも、多くの介護支援専門員がアセスメントの精度の向上や作業時間の短縮(アセスメント業務の時間が1時間未満から30分未満に)を実感していることが読み取れます。
「ケアマネジメントAI」自体の普及がまだ始まったばかりであることを踏まえると、こういった研究成果がエビデンスとして確立され、専門職の共通理解として機能するのはもう少し先かもしれませんが、現状分かっているだけでも、「ケアマネジメントAI」の活用が介護支援専門員の業務改善にとって非常に重要な要素となるという意見には一定の根拠があると言えるでしょう。
そして、何よりも私たち現場の介護支援専門員の業務実感に基づいてその有用性を想像すること自体はそこまで困難ではありません。モニタリングで伺った利用者の話を後で文章にする手間が削減できると考えただけでも、「それなら業務時間が減らせる」と多くの介護支援専門員が思うところではないでしょうか。
しかし、AIの活用を業務効率化の枠組みでのみとらえるのはいささか早計かもしれません。あるいは、単にAIが持つケアプランの内容や文言を提案する機能を活用することで、より充実した記載のあるプランを書けるという意味での『質の向上』に傾斜し過ぎるのもAI活用の可能性を狭くとらえすぎることになると思います。
すなわち、筆者がここで指摘したいことは、AIは(どれほどそれらしく見えたとしても)自ら考えるということがない道具に過ぎないが、AIを使う人間はAIとのやりとりの中で自分の考えを深めることができる。そうなるかどうかはかなりの程度AIを使うユーザーの姿勢に依存するものの、「ケアマネジメントAI」は介護支援専門員の思考を補助したり、結果的に拡張したりする可能性がある…ということです。
この点はむしろこれから、つまり環境としてのAIが当たり前になった時代によって問われることになると思います。AIの出力に頼りきるのか、それともそれを触媒にして自らの思考を伸ばすのか、AIが私たちにもたらす変化は、このようなところにも現れると思います。
もちろん、AI技術の発展によって可能になることはこれだけではありません。むしろ、私たちの業務に直接的なかかわりが薄い分野では、さらに大きな可能性が指摘され、また技術が非常に速いスピードで進化を続ける中で、AIは私たちの社会全体に、産業構造の大幅な変動や個々のライフスタイルの変化も伴う大きな影響をもたらすものになるという予測が有力です。
筆者はAI技術者ではありませんので、その内容をAIテクノロジーの文脈から詳細に解説することはできませんが、AIがもたらす社会の変化もまた、間接、直接に私たちの業務や活動に大きくかかわってくるでしょう。
【コラム】
ロボット店員はインフォーマルな社会資源になるだろうか?
筆者が以前に担当していた利用者Aさんのことです。Aさんには軽度の認知症がありましたが、一人暮らしで、時々、買い物途中に帰り道が分からなくなったりしていました。
「行きつけ」のスーパーの店長さんはAさんのことを知ってくださっており、何度か連絡をいただき、迎えに行ったこともあります。ある時、症状が進行したAさんが、商品の代金を払わずにお店を出てしまったことがありました。すかさず店長さんがやさしく声をかけてくださったので事なきを得ました。
ところで先日、コンビニエンスストアに配置される人型ロボットが開発されているという報道を見ました。もしあの時と同じ状況になったら同じ調子でできるだろうか、と思わず考えさせられました。
(第2回に続く)
引用・参考文献
1)西口周:ケアプラン作成支援AIを活用したケアマネジメントの展望,日本在宅ケア学会誌,Vol.27,No.1,P.18~22,2023.
2)静岡県:令和6年度ケアマネジメント業務AI導入支援事業の実施成果についてhttps://www.pref.shizuoka.jp/kenkofukushi/koreifukushi/kaigohoken/1071293.html(2025年11月閲覧)
村瀬崇人●居宅介護支援事業所を開設、運営している。認知症の独居者に対して定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを用いた365日24時間の在宅支援、高次脳機能障害者へのリハビリテーションや就労につながる支援、認知症の人とご家族のためのACP支援、多数の在宅看取りの支援などさまざまなケアマネジメントを手がけた。地域では介護支援専門員協会地域支部長として活動している。