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 介護施設に寄せられる苦情の原因は,接遇の悪さ,サービスに関する情報不足,設備面の不備,事故,私物の紛失などさまざまである。一般に,特別養護老人ホーム(以下,特養)やショートステイでは転倒や誤嚥などのリスクが少なくない。転倒や誤嚥といった事故や対応のまずさなどから苦情に発展することもみられる。場合によっては,多額の賠償や訴訟に至ることも考えられるため,苦情対応は疎かにしてはならない。

 こうした事故や苦情の対応において,現場レベルで中核的な役割を担っているのが相談員ではないだろうか。事故と密接な関係にある苦情対応は,相談員にとって避けて通ることができない業務といえる。そこで本稿では,事故(リスク)が原因となった苦情を中心に,対応に難渋した事例と円滑に進んだ事例の比較を通して,苦情対応の考え方や実践内容について考えてみたい。なお事例は,プライバシー保護の観点から,内容に支障がない程度に加工を施している。

苦情対応に難渋した事例

 まずは,ショートステイの送迎に端を発する事例と,ショートステイ利用中に起こった転倒事故に関する事例を紹介する。いずれも苦情対応に難渋した事例である。

事例1:ショートステイ送迎時に車いすが壁にぶつかったことに対する苦情

 Aさん(80代後半,女性,要介護5)のショートステイの退所に際し,介護職員と運転手の2人で自宅まで送迎をした。
その後,Aさんの家族から「先ほど送迎してもらった時,車いすが廊下の壁に当たって,壁に傷ができた」と苦情の電話が入った。

 訪問先から戻った相談員が,Aさんの家族から苦情があったことを聞き,Aさんの自宅に単独で向かった。現場を確認するも,すでにあったと思われる複数の傷があり,今回の送迎時にできたものかは断定できない状況である。相談員は「この(壁の)傷は今回の送迎でできたのですか?」と問い返したところ,Aさんの家族は「送迎で(傷が)できたのだから,そちらで(壁を)修復してほしい」ということであった。その場で返答はできないため,相談員は施設に戻ることとした。

 施設に戻るや否や,相談員は施設長に呼び出された。相談員が施設に戻るまでの間に,Aさんの家族から施設長に直接電話が入ったとのこと。相談員は施設長より「相談員から謝罪の言葉が聞かれなかったことにAさんのご家族は立腹されている。利用者から苦情があった場合は,上司に相談してから対応してほしい」と注意を受けた。

〈事例1の振り返り〉

 この事例は,家族の苦情申立に対し,相談員が事実確認に終始し,謝罪の言葉がみられなかった点が問題に挙げられる。当事者意識のなさが,苦情対応をより難渋にしている要因となっている。また,速やかに対応している点は評価できるが,相談員が単独行動をしており,組織レベルでの対応とは言い難い。壁の修復などの補償問題に発展する可能性を考えると,早い段階で上司に相談し指示を仰ぐことも必要といえる。

事例2:特養入所者に突き飛ばされ転倒したショートステイ利用者の家族からの苦情

 ショートステイ利用者のBさん(80代前半,女性,要介護4)は,不定愁訴がみられ,周囲の利用者に不安を訴える傾向がある。Bさんが特養入所者のCさん(男性,70代後半,要介護3)に対し訴えを口にしたところ,Cさんは激情し,Bさんを突き飛ばす行為がみられた。Bさんはその勢いで転倒した。その後,Bさんは足のつけねの痛みを訴え,歩行が難しくなった。看護師の判断で,Bさんは受診することになった。相談員が,Bさんの家族に病院に来ていただくよう電話で依頼をした。

 相談員がBさんを病院に搬送して数分後,Bさんの家族が病院に到着した。相談員は転倒に至った事情をBさんの家族に説明し,「受診が終わったら,結果を連絡してください」と言い残し,施設に戻った。Bさんは大腿骨を骨折していることが判明した。手術が必要なため,Bさんは入院(ショートステイは終了)することになった。

 翌日,Bさんの家族から「昨日の受診の時,説明が不十分なまま職員さん(相談員)がいなくなったので,病院側にうまく症状を伝えられなかった。医師から注意を受けた。施設で起こった事故が原因なのだから,最後まで責任を持ってほしい」と苦情の電話が入った。


〈事例2の振り返り〉

 この事例は,事故対応のまずさから苦情に発展した内容といえる。事故後に病院受診を速やかに行っている点は評価できるものの,家族が到着した時点で,家族に対する事故の顛末の説明や謝罪の言葉が欠けている点が問題である。また,病院側へBさんの受診の経緯を説明することなく,家族に対応を任せてしまっている点も問題に挙げられる。たとえ利用者同士のトラブルから発生した事故であっても,施設内で生じた事故については,施設側には一定の責任が問われることを忘れてはならない。

苦情対応が円滑に進んだ事例

 次に,当初は苦情がきかれたものの,その後の誠意ある対応により,苦情が収束に向かった事例を紹介する。

事例3:ショートステイ利用者の原因不明の打撲跡に対する家族からの苦情

 ショートステイ利用者のDさん(90代後半,女性,要介護5)は,一日の大半をベッドで臥床して過ごす。認知症がみられ,意思疎通も難しい。おむつ交換の際,介護職員がDさんの胸部に打撲痕(皮膚が一部変色している)を発見した。相談員からDさんの家族に事情を説明したところ,「母は一人で動くことができないのに,なぜ打撲痕ができるのか?」という苦情がきかれた。すぐに相談員は謝罪をし,原因を調査した上で,対応すると返答した。

 現場スタッフに確認するも,原因は分からず,ショートステイ利用前からの打撲痕の可能性も否定できない。看護師の判断で,受診をすることになったため,相談員はDさんの家族に電話をし,病院に来ていただくよう依頼をした。受診には相談員が同行し,病院側に事情を説明し,受診が終わるまで対応した。X線検査の結果,肋骨の骨折が判明した。部位的にも手術は行えないため,保存療法となった。

 Dさんの家族には,改めて施設長からも謝罪をし,医療費の補償やショートステイの延長利用の提案がなされた。Dさんの家族からは「受診をしてもらえたことに感謝している。高齢なので,何が起こっても仕方がないと思っている。気にしないでください」ということであった。

〈事例3の振り返り〉

 この事例は,打撲痕の原因が特定できていない時点にもかかわらず,まずは家族に謝罪をしている点が苦情対応としては評価できる。また,病院受診の対応についても,病院側に受診の経緯を説明し,最後まで付き添っている点に誠意が感じられる。さらに,相談員レベルの謝罪だけではなく,改めて施設長からの謝罪とその後の補償の説明がなされており,組織レベルでの対応ができている。こうした施設側の真摯な対応が伝わったのか,当初きかれた苦情も収束に向かったものと考えられる。

事例の分析を通して苦情対応を考える

 対応に難渋した事例(事例1,事例2)と円滑に進んだ事例(事例3)の比較を通して,苦情対応のポイントを考えたい。

①まずは謝罪から入る

 事例1と事例2は,一貫して申立者に対する謝罪がみられない点が特徴である。特に事例1は,謝罪のなさが苦情に発展した例ともいえる。一方で事例3は,事故の原因が特定される前であっても,まずは謝罪から入っている。事実確認を優先させたい気持ちは分かるが,苦情を申し立てる人は「不快な思い」を抱いており,「謝ってほしい」という心理状態にあることを理解する必要がある。その点を押さえずに次のプロセスに進むと,感情を逆なですることにもなりかねない。苦情対応では,原因の究明や解決策の提示より先に,まずは「不快な思い」をさせたことに謝罪をすることが大切といえるだろう。

②相談員一人で抱え込まない

 事例1は,相談員が迅速に対応しているものの,単独で行動している感が拭えない。一方,事例3では,施設長からの謝罪や解決策の提示がなされている。苦情対応では,事例1のように補償問題を示唆される可能性もあるため,組織レベルで対応することが望ましい。苦情対応の窓口は相談員であるため,相談員一人で抱え込んでしまう傾向に陥りやすいが,問題が大きくなった時のことを考えると,上司への連絡を早い段階で行うことがポイントといえる。

③医療機関に丁寧につなぐ

 事例2と事例3は,ともに医療機関への受診をしており,利用者の健康面を考えると適切な対応といえる。しかし,事例2は医療機関へつないだものの,その後は家族に任せきりにしているのに対し,事例3では最後まで受診に付き添い,医療費の補償についても言及できている。特に事故が原因で医療機関を受診する場合は,丁寧な対応が不可欠である。家族にすれば,転倒などの事故は仕方がないにしても,施設で起こったことは事実であり,責任を持ってほしいという気持ちが強い。それゆえ,「受診対応はサービスの範囲外であり,後はお任せします」という態度をみせると,家族の怒りの感情を余計に大きくしかねない。受診は時間を要する業務かもしれないが,利用者や家族の置かれた立場を理解した上で,根気よく対応することが大切である。

まとめと今後の課題

 本稿では,苦情対応に難渋した事例と円滑に進んだ事例の比較を通して,苦情対応について,①まずは謝罪から入る,②相談員一人で抱え込まない,③医療機関に丁寧につなぐ,という3つのポイントを導き出した。

 苦情対応は,申立者側の「負の感情」に対峙する業務であるため,通常の相談援助の場面以上にデリケートな対応が求められる。一方で,苦情に真摯に対応することで,それまで以上にリピーターを増やすことにつながるという「グッドマンの法則」も知られるところだ。まずは苦情を起こさせないような職場づくりが前提となるが,苦情が発生した以上,そこから目を背けず,真摯に対応していく心構えが相談員には求められる。苦情というピンチをチャンスに変えていくことが,相談員にとっての腕の見せどころではないだろうか。