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利用者と家族のニーズが異なる場面の問題点

 私たちは,支援が必要な場面で,利用者と家族のニーズが異なる状況に遭遇することがあります。利用者のニーズを優先することもあれば,家族のニーズを優先することもあり,どちらのニーズも優先できず前に進めないこともあります。

 私が仕事としている成年後見人という立場は,病院,施設,サービス事業所などで話を聞いていただき,利用者と家族のニーズについて調節していく役割を持ちます。ニーズが多様化している今,両者の意見を聞いて対応してくださる皆様にはいつも大変感謝しています。本稿では,それらの事例を踏まえて,利用者と家族のニーズが異なる場面の問題点を考えていきたいと思います。

どのような点で利用者と家族のニーズが異なるのか
・サービスの利用に関する思い。利用したい,利用したくない。
・サービスを利用する目的。
・サービスの内容,量,料金,時間など。

家族と利用者のニーズが異なる場面の問題点
・両者のニーズが違えば生活上の目標も違い,皆で目指す到達点が定めにくい。
・利用者と家族,双方の不満につながりやすい。
・利用者の判断能力の低下から,家族のニーズだけを反映する支援になりやすい。

事例紹介
―認知症が進み生活上にさまざまな支障が生じてきているため,
 安全のため施設に入所させたい弟と入所したくない本人

 地域包括支援センターより依頼を受け,一人暮らしの70代女性の保佐人に就任することとなった。近所のスーパーにてお釣りが合わないと苦情を言ったり,鍵を失くしたり,通帳を何度も再発行したりと認知症の症状が見られている。

 初めての介護保険の申請を行うと要介護1の認定がおり,介護保険サービスが開始された。近くには弟が住んでいるが,疎遠であり支援を受けることは難しかった。

 きちんと食事を摂っているのか分からなかったため,まずは訪問介護の導入を試みた。ケアマネジャーに同席してもらいインテーク面接が行われたが,「人の世話になりたくない」とすべての介護保険サービスを一刀両断。認知症の症状は見られていたが,本人にとっては,足腰は丈夫だし,介護は必要ないし,他人が家に来ること自体が億劫に感じるようであった。

 何度か家へ足を運ぶことにより,顔(存在)を覚えていただくことができた。心配していることを伝え続けた結果,定期的に健康チェックをする訪問看護サービスを導入できた。その後,おいしいご飯を食べることができるというきっかけでデイサービスも利用できるようになった。このデイサービス導入まで,数カ月を要した。

 しかし,その最中も,「呼ばれている」と近くのアパートの戸を叩いて回ったり,近所から「困っていそうな人が道に佇んでいる」と警察へ連絡が入ったりと,認知症の症状は徐々に進行しているようだった。

 キーパーソンである弟,ケアマネジャー,成年後見人と会議を重ね,見守りがある住宅型有料老人ホーム等の施設サービスを本人へ提案していくが,現在も本人の拒否が続き(「必要ない」「なんでそんな所に行かなくてはいけないのか」と言われる),入所には至っていない。多くの在宅サービスを受けることで在宅生活が継続されている。

本人のニーズ
 少しの物忘れがあることは自覚していて心配もあるが,まだまだ家で生活できる。施設なんて入りたくない。馬鹿にしないでほしい。

家族(弟)のニーズ
 認知症のため警察にお世話になったり,地域でもめ事を起こすこともあり,誰かの目がある施設に入所してもらえば安心できる。自分にも家庭があり,付きっきりで看るわけにはいかない。火事や交通事故が心配。

保佐人のニーズ
 冷暖房器具を自分で使うことができなかったりと生活上での認知機能の低下は著明であるが,在宅サービスを利用することで何とか在宅生活を維持することができている。本人は施設入所に強い拒否があるため,今後も施設利用の目的を伝えて説得を続けていきたい。安全面を考えると不安も多く,弟,ケアマネジャーと共に施設入所を勧めていきたい。

インテーク場面においてニーズが異なる場合,
どのように相手の思いを受け止め調整するのか

 支援の最初にはインテーク(intake:受理・受付)が行われます。これは,利用者や家族と面談を行い,問題を解決へと導く最初の一歩となる大事な場面です。インテーク場面において利用者と家族のニーズが異なる場合は,原因をきちんととらえ支援していくことが必要です。そのニーズはどこから来ているのか,なぜ叶えられないのか,今は無理でも時間をかければ叶えられるのか。インテーク場面ですべてを聞き取り把握することは難しいと思いますが,まずは両者のニーズを受け止め,道筋を示すことで,利用者・家族共に今後のイメージがつきやすくなります。

 先述の事例では「在宅生活は困難」と判断されますが,人生の大きなターニングポイントになる生活の変化であり,なかなか面と向かって本人に言えることではありません。サービスの調整には時間もかかりますし,本人の気持ちも重要です。本人の「在宅生活を続けたい」というニーズと,家族・保佐人の「本人の安全」というニーズの天秤をバランス良く保ちながら準備を行い,タイミングを図ります。

 私は,インテーク場面から家族と利用者のニーズが違うという場面はそう多くはなく,またその場で何かを決断できるケースは少ないのではないかと考えています。それは,今までの利用者と家族の関係性があり,パワーバランスがはっきりと表出されているからです。このパワーバランスは,今までの家族の歴史の中で築き上げられたものであり,そう簡単には崩れません。思ったことが声に出せない,本音を語れない,きちんと話す機会を得られない環境では,ニーズが一方向になりがちです。支援が必要となった何らかの理由でこのパワーバランスが崩れる時,関係性が悪くなったり,逆に良くなったりといった変化が見られることもあります。

サービス開始後,どのような調整が必要なのか

 一般的に,サービスはPDCAサイクルに基づき提供・見直しが行われていきます。サービス開始時はうまくいっていても,その後にニーズが変わることもよくあります。日々のサービスや生活の中から,時間をかけて利用者の思い,変化していくニーズを聞き取っていくことが必要だと感じます。

 そのため,サービス開始後も利用者だけとの時間,家族だけとの時間,両者そろっての時間それぞれにおいて,家族関係の雰囲気を感じ取ることが重要です。状況によってびっくりするぐらい反応が違うことも多いからです。
サービス開始後は,きめ細かなモニタリングを行い反応を把握していくことが,サービス向上につながるポイントだと感じます。

まとめと今後の課題

 サービスの契約は利用者と交わすものであり,利用者が最優先であるべきです。しかし,家族の支援なくして利用者を支えることはできません。

 時には,安全への配慮や本人の状況判断能力の低下から,家族のニーズを優先することもあるかもしれません。そもそも,利用者のニーズをかなえるが現実的に不可能な状況もあるかもしれません。しかし,私たちは,利用者に合わせた分かりやすい言葉で,同意が得られるまで根気よく説明し続け,利用者と家族のニーズをすり合わせて,両者のニーズの実現を目指していくことが求められています。

 家族がなく独居であったり,家族が精神・発達障がいを持っていたりと,本人以上に家族が問題を抱えているケースもたくさんあります。私たちは,自分の家族観を押し付けることなく,本人と向き合いながら家族とも向き合っていかなくてはいけません。

 家族は,時にクレーマーと化すように見え,対応が大変な場面もあると思います。しかし,家族の不安やSOSがある時,両者のニーズが合わない時こそ,それを本人・家族を知るチャンスととらえて支援していきたいものです。