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ACPとは

 1970年代では自宅での死亡が5割程度であったが,近年に入り,病院・介護施設での死亡が8割以上にものぼっている1).一方,高齢社会白書(2019)によると,60 歳以上の人に「万一治る見込みがない病気になった場合,最期を迎えたい場所はどこか」という問いに対し,約半数の人が「自宅」と回答している.すなわち,最期は自宅で死にたいという希望と,実際には病院・介護施設で亡くなるという現実とに乖離が生じている.そして,2010年の終末期医療に関する調査では,全体の85%が「介護してくれる家族に負担がかかる」として,在宅での終末期に希望がもてない状況が続いている2).このことは,昨今提唱されている"だれもが住み慣れた地域で住み続けることを可能とする"地域包括ケアシステムの理念とも関連し,死に関する場所のあり方や死を迎えるにあたっての意思決定支援の定式化が急がれている3).

 こうした背景の下,厚生労働省では『自らが望む人生の最終段階における医療・ケア』と称し,モデル事業を行うなど,アドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)を推奨している.ACPとは「患者・家族・医療従事者の話し合いを通じて,患者の価値観を明らかにし,これからの治療・ケアの目標や選好を明確にするプロセス」と定義されている.ACPの対象は若年者も含むとされているが,実際には高齢者を主な対象と捉え,将来予想される認知症などによる判断能力の低下に備え,その時に望む医療を,患者,家族,医療者が事前に協議しておくことである4,5).最近ではACPを「人生会議」と称し,すでにガイドラインも作成されている.

 具体的には,事故や病気などで自分の考えを伝えられなくなった場合に備え,人生観や考え方などを文書に残し,これから受ける医療やケアについて思いを表明していくすべての手順のことをいい,経管栄養の有無,心停止時の蘇生の要不要など,在宅,病院,介護施設を問わず,自分の人生の最終段階をあらかじめ関係者との話し合いにより決めておくことである().



ACPの重要ポイント

 厚生労働省はガイドライン作成にあたり,その途中経過において重要な変更を3点している.

 1つは,本人の意思は常に変化しうるものであり,医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すことが重要としている.諸外国のデータにおいても,意思決定から終末期までに平均65カ月程度を要するとしており,話し合いの継続を念頭においたACPが必要である.

 2つは,本人が将来自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから,本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者も含めて,事前に話し合っておくことが重要としている.これは,認知症や意識が不鮮明となる重篤状態になる前に,意思表示を明確しておくことで,不慮の事故や疾病にも対応でき,あらかじめ本人意思の代理人を選定しておくことが望ましい,と考えられる.

 3つには,病院だけでなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう配慮することを求めている.これは,人生の最終段階が病院だけでなく,介護施設や在宅へも適用できる可能性を検討した結果であろう.

ACPにおける共有意思決定支援

 判断能力が低下または喪失してる場合,医療行為に関して難しい判断に迫られる.その理由として医療に関する同意は本人にしかその権利が有されてないためである.医師の判断により医療行為が行えるのは,患者の意識がない場合のみであり,非侵襲性の医療行為であっても家族や後見人に法的な同意権は付与されていない.白山(2014)が行った高次脳機能障害者の意思決定支援に関する調査では,医療・介護従事者の専門職であっても患者の医療同意をその場で求められた場合「代わって同意する」と回答した者が12.3%(N=383)であったとし,不適切な医療同意の解消には,意思決定支援の定式化が喫緊の課題であると報告している6,7).また,意思決定支援のプロセスにおいて,医師だけでなく,看護師,薬剤師,社会福祉士などの多職種による事前の合意形成が必要であり,その都度レコード(記録)を明確に残しておくことも重要であると提唱している(図1).


高齢者対するACPの特徴(認知症の問題など)

 認知症の疫学において,85歳以上の半数が認知症となる可能性があるとされており,ACPの推進をいっそう急がなくてはならない.認知症による判断能力の低下は,医療同意能力の喪失を意味し,様々な医療行為の決定に関し,医師や家族などに大きな責任を課すことになる.万が一責任回避の判断が成された場合,適切な時期に最良の医療行為が行えなくなる可能性があることも熟知しておくことが必要である.また,高齢期では何らかの疾患により,内科・外科など多科通院しており,主治医を決めてACPプロセスを進めておくことも重要である.ただし,この場合,在宅での看取りをしてくれるか否かについて事前に確認する必要があり,そうでない場合は,入院後にその主治医と話し合うことになる.したがって,まずは自分なりの考えや家族との約束事,そして代理人を決めておくことで,急な入院などの状況下においてもACPを円滑に進めることができると考えられる.病院・施設によっては,ACPの手引きを作成して啓発している所もあり,高齢期のACPを十分に理解しておくべきである.前原8)は,その手引きおいて5つのステップを明示し,1「自分の希望や思いについて考える」,2「自分の健康について学ぶ」,3「意思決定の代理者を選ぶ」,4「医療者に希望や思いを伝える」,5「自分の考えを文章にする」,という段階的に人生設計を行うことを推奨している.

ACPを進める体制づくりと実践でのポイント

 ACPにおいては多職種連携・協働が必須であり,医師を中心としたチームアプローチである.医療や介護の現場では,常に患者・利用者との良好なコミュニケーションや信頼関係の構築が大切だと強調される.これは,従来から指摘されるインフォームド・コンセント(説明と同意)においても同様であり,ましていざという時のACPにおいては,いっそうの良好な関係性の構築が求められる.そして,普段のコミュニケーションにおいて,患者の最終段階の意思を意図的に汲み取るコミュケーション術を身に着けておくべきであろう.

 実践では,2つのパターンに分けて考えることが必要である.それは,本人の意思が確認できる場合とそうでない場合である.図2に示すように,特に本人の意思が確認できない場合は「推定意思」の尊重が重要となる.推定意思とは,医療上の治療方針決定においては患者自身の意思が尊重されることが原則であるが,本人の意思確認ができない場合に,文書や普段からの言動によって,患者自身の意思を複数の医療者などによって推定することを指す.つまり,推定意思を基にした最善の医療を提供することに間違いはないが,この場合に患者のQOLと医療的コストとの関係など,様々な忖度が行われてしまう点に注意しなければならない.

 ACPは単に最後の瞬間をどうするのかを決めることではない.人生最後に至るプロセスを大切にし,関係者による話し合いを幾度となく行い,患者にとって最善の利益を追求することに他ならないのである.


引用・参考文献
1) 統計で見る日本:https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003214716(2019.8.30アクセス).
2) 終末期医療に関する調査:www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/zaitaku/dl/07.pdf(2019.8.30アクセス).
3) 白山 靖彦, 市川 哲雄 : 歯科がかかわる地域包括ケアシステム入門, 医歯薬出版,2017.
4) Rietjens J et:Definition and recommendations for advance care planning: an international consensus supported by the European Association for Palliative Care, Lancet Oncol. 2017 Sep;18(9):543-551.
5) 日本老年医学会:https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/index.html(2019.8.31アクセス).
6) 白山靖彦:社会福祉の立場から認知症高齢者の意思決定プロセスを考える,日補綴会誌6(3),255-260,2014.
7) 白山靖彦:高次脳機能障害者に関する意思決定支援の定式化に向けた報告,歯界展望129(6),1184-1186,2017.
8) 医療法人慈生会前原病院:http://jiseikai-med.or.jp/(2019.8.30アクセス).
9) 厚生労働省:人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドラインに関するリーフレット,2015.