介護サービス事業者における「説明責任」の現状と課題

 私たち介護サービス事業者には説明責任が求められる,ということを耳にすると思いますが,皆さんはこの根拠をきちんと理解されているでしょうか。例えば,下記をご覧ください。

『指定介護老人福祉施設は,指定介護福祉施設サービスの提供の開始に際しては,あらかじめ,入所申込者又はその家族に対し,第二十三条に規定する運営規程の概要,従業者の勤務の体制その他の入所申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を記した文書を交付して説明を行い,当該提供の開始について入所申込者の同意を得なければならない』
(指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準 第4条「内容及び手続きの説明及び同意」)
『計画担当介護支援専門員は,前項に規定する解決すべき課題の把握(以下「アセスメント」という。)に当たっては,入所者及びその家族に面接して行わなければならない。この場合において,計画担当介護支援専門員は,面接の趣旨を入所者及びその家族に対して十分に説明し,理解を得なければならない。』
(指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準 第12条4)

 これらは,利用契約時とアセスメントをする際に説明を行うことの根拠であり,いわゆる特別養護老人ホームの運営基準に記されているものです。ほかの事業形態の運営基準でも,さまざまな「説明」に関する条文が記されています。

 これらの基準は,私たち介護保険サービス事業者が最低限守らなければならないルールであることはご存じのとおりです。これを守ることで,私たちは介護保険事業の原資の大半である保険料や税金という公費を使うことを社会から認められているのです。つまり,説明責任を果たすということは,倫理道徳上必要であることはもちろん,私たちの仕事における最低限のルールであるという認識が必要です。

 しかし,昨今の介護業界では人材不足の影響もあり,これらの基本的なルールについて職場内できちんと教育されないまま,管理者や相談員の任に就き,結果としてトラブルに発展するということが起こっているのではないでしょうか。

 本稿では,これら説明責任のあり方を探りながら,トラブルを回避する術について考えてみたいと思います。

利用者・家族とのトラブルの要因

 介護労働安定センターの平成30年度調査では,介護職が抱える利用者や家族に関する悩みについて,図1のような結果が出ています。


 回答の多くで,介護保険制度という公的財源を原資とした公共サービスのルールについて,利用者・家族側の理解不足や心構えの不足が原因と考えられる介護職の悩みが挙げられています。具体的なトラブルとしては,サービスの利用回数・頻度や時間,提供体制やサービス内容に対するものや,利用負担料金に関することが挙げられるのではないでしょうか。近年は介護離職防止政策の影響もあり,インターネットなどにおいて介護保険サービスの利用がハウツー的に取り上げられていることもしばしば見られます。

 こうした介護保険サービスへの誤った認識や過度な期待の醸成は,国やメディアなどの社会環境によるものも一因として考えられます。そして,残念ながら現場にそのしわ寄せがきているとも言えます。しかしながら,公的財源を使っているサービスとして,私たちは利用者や家族がきちんとした理解を得られるように,根気強く説明責任を果たしていかなければなりません。それが私たちの職責であることは前段で触れたとおりです。

トラブルが発生する背景にあるのは「期待」と「実感値」のギャップ

 利用者・家族の介護保険サービスへの理解不足・心構え不足に起因するトラブル発生のイメージは,図2のようなものです。

 利用者・家族の大半が,介護サービスを受けずに済むならばそうしたいと考えています。しかし,それでも介護サービスを利用することになった場合は,そうした介護生活への不安や,周りのさまざまな情報による気持ちの揺らぎ,そして介護のプロに頼むという決断が,総合的に介護サービスへの「期待」を膨らませます。この「期待」と実際にサービスを利用して得られる「実感値」のギャップが大きければ大きいほど,利用者・家族は失望を蓄積させ,何かの拍子にトラブルへと発展してしまうのです。

 「説明責任」を果たす意味の一つが,こうした「期待」と「実感値」のギャップを埋めることであると言えます。介護においては,利用開始前の説明に始まり,長い介護生活を経て最期の時を迎えるまでに,さまざまな状態・状況の変化が訪れます。ですから,利用者や家族,事業者側の状況や国の制度に至るまで,さまざまな変化の都度,私たちは説明責任を果たす必要があるということを認識しましょう。

説明責任の場における介護従事者と利用者・家族の視点

 具体的な説明責任の場面における,説明をする側と,説明を受ける側双方の視点と課題を押さえておきましょう。

相談員・ケアマネ・管理者(説明する側)の視点から

 介護の専門家である私たちは,常日頃たくさんのケースを経験しています。ですから,自分と利用者・家族の間には情報や知識量に差があることを見過ごしがちです。また,少なからず期待を持つ利用者・家族に対して,制度上できないことや,支援の困難さ,時には老いや死についての心構えまでも伝えなければならないことがあります。

 利用者・家族によっては,それに対しマイナスの感情を表す方もいます。こうした他者のマイナスの感情に触れることは,私たちも心理的に抵抗感を抱きがちです。また,別の視点として,そもそも説明すべきことを私たち自身が理解していないということもあるでしょう。

 このように,説明する側の視点と課題として,情報格差に気づかない専門職としての落とし穴や,説明自体への心理的抵抗感,基本的知識の不足が考えられます。

利用者・家族(説明を受ける側)の問題の視点から

 医師や弁護士などの専門家に頼る時,そうしたプロと同等の情報や知識,経験を持っていない人は,プロの言動が正しいものと考えてしまいがちです。そして,プロに対して質問することには,遠慮や恥ずかしさといった心理的抵抗感を抱くものです。これは,介護のプロである私たちと利用者・家族の間にも同じことが言えます。加えて,利用者・家族は介護サービス利用の必要性に迫られており,切迫感や焦りがあるという点も押さえておきたいところです。

 一方で,介護のプロである私たちが基本的な事項も説明できないと,利用者・家族は不信感を抱いてしまいます。不信感を表現できればまだよいですが,上記の心理的抵抗などのために,そのまま飲み込んでしまうことも少なくありません。

 このように,説明を受ける側の視点と課題は,専門家への遠慮や,切迫した状況における"お任せ"の心理,多少のことは飲み込んでやり過ごしてしまう場合などがあります。つまり,すべてを理解して納得するというところまでたどりつかずにサービスがスタートしてしまう可能性があると考えられます。

サービス内容を利用者・家族に理解してもらうために

 それでは,「期待」と「実感値」のギャップを埋めるための説明責任の果たし方について,説明する側,説明を受ける側の視点を踏まえた上で考えていきましょう。

①「期待」を明らかにする

 ギャップを最小限にする上でも,そもそも利用者・家族が抱いている介護サービスに対する期待をできるだけ明らかにすることは有効です。一般的には,インテークやアセスメントの精度を高めていくことになります。時には,新規獲得への意識から,期待を明確に共有しないまま受け入れてしまうことがあるかもしれませんが,こうしたことが後々のトラブルに発展する可能性があります。質問と傾聴を重ねて,利用者・家族の「期待」をできるだけ明らかにして共有しましょう。

②提供できるサービス・できないサービスと代替案を熟知する

 期待を明らかにできると,自事業所で提供できるサービス・できないサービスが見えてきます。できないサービスについては,それが制度上のことなのか,事業所の体制的なものなのか,根拠を基に相手が納得できるように伝えることが重要です。また,杓子定規な説明をするのではなく,代替案があれば示したり,譲歩や条件を提示したりするなどして,期待に別の形で応えられないかを利用者・家族と一緒に模索しましょう。この模索する過程が重要です。

③過去の経験を踏まえる

 過去のクレーム報告書など,蓄積しているものを振り返って要因分析と対策を行いましょう。傾向としてトラブルになりやすいことは事前に契約書などに記したり,別紙の同意書を示したりするなど,相手の理解や納得を得やすいツールを作成することで,トラブルが未然に防げることがあります。また,書面で残すこと自体も有効です。

④信頼関係を構築し続ける

 最も大事なことは,これらの対応について誠意を持って続けることです。利用者・家族の思いをくんで,できるだけその期待に応じようとすること,懇切丁寧に説明責任を果たすことが重要です。説明責任を果たすとは,単に決まり事を伝えることではありません。"説明"の意味「事実を明らかにして相手が分かるように説く」のように,誠実かつ透明性のある事実開示を行い,相手が理解できるような言葉や態度で伝えることです。

 また,できると説明したことについてはきちんと提供できるように,日頃から介護サービスそのものの質の向上,従業員の間における情報共有,利用者・家族とのコミュニケーションを図ることが重要です。

まとめと今後の課題

 説明責任を果たすということは,利用者・家族の「期待」と「実感値」を埋めるための一つの方法であり,同時に公的財源を使う介護サービスの本質を伝える機会であり,そして私たちの職務であることを述べました。もちろん,トラブルを避けるための回避策,ルールで決められていること,という一面もあります。しかし,説明責任を果たすことを,介護サービスを必要として私たち介護従事者に期待を寄せてくれる利用者・家族と信頼関係を構築することそのものととらえ,その本質的重要性と実際に説明する方法を後進に伝えていくことが,今後の課題となるでしょう。