災害対策


【第7回】 「リスクコミュニケーション」

【はじめに】

 2020年は、地震や台風、集中豪雨といった自然災害に加え、新型コロナウイルス感染症への対策・対応が事業運営の大きな課題となりました。多様なリスクへの備えが求められる中、各施設では事業継続計画(BCP)や避難確保計画などの作成も進んでいることと思います。

 しかし、非常時の取り決めや被害を最小限にするための備えが進む一方で、リスク分析についてはまだ不十分と感じることが多いです。今回は、その中から平時や災害時のコミュニケーションについて解説します。

【リスクコミュニケーションとリスク分析】

 リスクコミュニケーションは「あるリスクについて、関係する当事者全員が情報を共有し、意見や情報の交換を通じて意思の疎通と相互理解を図ること。」(引用:デジタル大辞泉)とされています。「リスコミ」と略され、リスク分析の一つの要素になります。

 また、リスク分析とは、「危険な状況が起こる可能性を、情報を確認・管理・交換するなどして分析し判断すること」(引用:デジタル大辞泉)であり、その要素には「評価」「管理」「リスクコミュニケーション」の3つがあります。

〈リスク分析のイメージ(風水害)〉

 リスク分析を福祉事業所の災害対策で例えると、次のようになります。

 科学的、客観的な評価やその管理があって初めて質の高いリスクコミュニケーションができるということに注意が必要です。

【ハザードとリスク】

 次に、リスクコミュニケーションを実行する上で重要な「ハザードとリスクの違い」について説明します。

 ハザードは「危険因子」「有害性」、リスクは「危険度」「好ましくないことが起きる可能性」(引用;リスクを伝えるハンドブック 西澤真理子 エネルギーフォーラム)とされています。

〈ハザードとリスクのイメージ(風水害)〉

 ハザードとリスクを福祉事業所の災害対策で例えると次のようになります。

 リスクはあくまでも可能性であるという認識が重要です。施設のリスクを伝える側(施設側)がこのことを認識せずハザードとリスクを混同すると、いたずらに不安を煽ることに繋がります。

【クライシスコミュニケーション】

 リスクコミュニケーションが平時から実施するのに対応し、クライシスコミュニケーションは緊急時、事故時に必要なコミュニケーションになり、それぞれ違いがあります。緊急時はゆっくりと相互の意見を交わす時間もない為、できるだけ早く正確な情報を伝える必要があり、その使い分けも重要になります。

 なお、リスクコミュニケーションとクライシスコミュニケーションは、社会に情報伝達するコミュニケーションとして「パブリックコミュニケーション」と呼ばれます。



【事例から見るコミュニケーション】

 次に、非常時の現場でクライシスコミュニケーションやリスクコニュニケーションが必要だと感じた事例を紹介します。

〇事例1 被災時のコミュニケーション

 西日本豪雨で被災したある施設の事例です。

 その施設では、避難した先でもケアを継続していたのですが、その中で職員から、「この状態がいつまで続くのか」「ボーナスは払われるのか」など、現状に対する不満や今後の処遇についての不安を訴えるような発言が多くありました。

 よくよく話を聞いてみると、被災直後から忙殺されている上に、施設長や法人幹部から現状や今後についての方針等が示されておらず、組織内にコミュニケーション不全が生じている事がわかりました。この状況が続けば職員の不信感は増大し、後に大量離職となる可能性も考えらえる場面でした。

 被災後はその対応に忙しく、時間がとりにくいものです。しかし、そのような状況だからこそ、たとえ短い時間でもしっかりとコミュニケーションをとって現状を共有し、思いを伝え合うことの重要性を示唆しています。これは、利用者・家族や取引先等に対しても同様です。

〇事例2 新型コロナウイルス対策での方針共有

 特別養護老人ホームやデイサービスなど介護保険サービスを多拠点で運営している法人での事例です。

 新型コロナ感染症の対策について話し合っていたところ、ひとつの拠点の施設管理者から「他の施設ではここまでやっているが、うちの施設ではやっていない、不十分ではないですか?」というような意見が出されました。この意見を基にさらに話し合ったところ、この法人では既に色々な対策が取られていたのですが、対策の検討過程や内容の共有が不十分で、一部の職員の不安や不満が高まっていたことがわかりました。

 一見どこにでもあるような事例になりますが、このような不満がある状態で感染者が発生した場合「それみたことか」と法人全体への不信感が高まり、その後の信頼関係にも大きな影響を及ぼしかねません。

 また、新型コロナウイルス感染症に関しては、どこまで厳格に感染予防策を講じるかの判断が非常に難しく、現状では何をどのように実施することが正解なのかはっきりしていません。この様に答えがはっきりしない問題については、より一層のリスクコミュニケーションが重要なのです。

 事例にあげた法人でも、対策の検討段階で前述の施設管理者が参加し、意見を出す機会があれば、このような不安や不満は生まれなかったでしょう。つまり、リスクコミュニケーションが非常時に生じる不満や不信感の爆発を予防するのです。

【リスク認知のバイアス】

 リスクコミュニケーションに限らず、コミュニケーション全般に共通することとして、人の認知にはバイアス(先入観や偏り)がかかることが知られています。

 それぞれのバイアスを意識してコミュニケーションを図る事が重要になります。このバイアスは伝える側も聞く側も同様に影響を受ける為、バイアスがあることを理解すること、複数の人間で様々な角度から評価することなどにより、その影響をできるだけ少なくする工夫が必要です。

【個人情報保護】

 ここまで災害時等のコミュニケーションについてお伝えしましたが、特に緊急時のクライシスコミュニケーションでは個人情報保護について注意が必要です。新型コロナウイルスであれば、感染した職員が特定できる情報を勝手に公表してしまうと、該当する職員への誹謗中傷や差別など発生し別の危機が発生してしまう可能性があります。非常時ほど、個人情報保護については留意する必要もあります。

【まとめ】

 災害対策も感染症対策もその時の対応に目が向きがちですが、その周辺で起こるコミュニケーション不全による影響も理解し、平時からしっかりとコミュニケーションを図ること、また緊急時にも対応できるように充分な準備をしておくことが重要です。

 平時からコミュニケーションを継続し、危機的状況下にも適切なコミュニケーションを実行できることは、利用者や職員等、関係者との信頼を維持することになりますので、是非取り組んで頂きたいと思います。