施設マネジメント


【第11回】 「トリプル改定で医療・介護・障害福祉は
    どう変化するのか(上)」

岸田政権のこれまでとこれから

 岸田政権は参院選に向け、内政面で野党につけ入らせるような新しい政策は公表せず、安倍-菅政権で組み上げた改革工程表の実行に注力してきました。さらに外交面では、今年春から大規模な戦闘が行われているウクライナ情勢への対応で、上手に得点を稼いでいます。

 この状況について野党からは「無策無敵内閣だ」と嘆息の声があがるほどです。これはどういうことかと言うと、「現在行われている政策は前政権のものなので、岸田政権の政策ではない。外交での失敗はないので国内での強い反対もない(つまり対立する敵もいない)」ため、選挙戦に利用できるような“隙がない”ということです。

 その結果、本年7月10日に行われた参議院選挙は自民党の勝利に終わりました。岸田政権は衆参両院で連立先の公明党議員票も加え過半数の議席を得ており、今後3年間は安定した議会運営にめどをつけています。いよいよこれから、医療介護分野に岸田政権色がどう反映されるかが示されることとなります。

 すでに社会保障審議会介護保険部会1)では、次期2024年度の医療・介護・障害分野トリプル改定に向けた議論が開始され、各識者からはフリートークによる意見や要望が出されています。今のところ3月と5月に行われた2回分の議事録が公表されていますが、その内容として注目されるのは以下の3点です。

①医療・介護・福祉サービスについては、2024年まで改革工程表2021に沿って取り組みが行われることが決まっている。改革工程の進歩状況は経済財政諮問会議でチェックして総理に毎回報告、この会議での議論が次の改訂に大きく影響する。

②介護保険部会では、岸田政権の打ち出した全世代型社会保障構築会議での論点に沿った誘導が強くなされており、これが2024年改定の方向を決めている。議論や資料作成及びそのための調査も、上記会議の方向性に合致しているかチェックされている。

③今まで推進整備されてきた地域包括ケアシステムは、"給付型の社会保障である"とされ、システムの更なる進化として「地域共生社会の推進」という分野横断的な取り組みを意識して、連携する方向で議論を行うように誘導指示がなされている。

医療・介護事業所の再編(経営の大規模化・協働化)は
5カ年計画となる見込み

 特に注目してほしいのは③です。全世代型社会保障構築会議での中間整理(概要) 3ページ目「6.医療・介護・福祉サービス」2)を見てください。

 

 そこには、(都道府県主導で)地域事情に合わせた地域医療構想を推進する旨が書かれていますが、その内容は簡単に言えば“医療と介護の提供体制を改革し、経営の大規模化・共同化を推進する”ということです。「でも“地域医療構想”と書いてあるじゃない。医療再編は介護分野とは関係ないでしょう」と指摘される方もいらっしゃるでしょうが、先に取り上げた介護保険部会での「地域共生社会の推進」と合わせると、岸田政権の意図が現れてきます。

 つまり、“2040年に焦点を合わせ、医療体制再編に巻き込む形で、分野横断的に介護・障害分野も含め地域社会資源の全体最適化を行う”つもりだということです。そして、その再編は「第8次医療計画」に合わせるのですから、2024年〜2029年の5カ年計画で進行することも分かります。

 本連載の第10回で取り上げたように、経済財政諮問会議では経済産業研究所の竹森議員が、「今回でもJCHO(地域医療機能推進機構)とか連携があるところは、非常にうまく人を配置してコロナに対応している。そのため、もっと大きな組織で地域的な連携ができるところ、役割分担ができるところを育んでいくことが大事だ」3)と指摘し、より効率的な経営に変えていく投資ができて、しかも連携が可能な大きな組織だけに経営を任せるような再編を促しています。

地域事情に合わせた効率的な連携運営は
政府による強制では実現できない

 このような連携法人の顕著な成功例であり、分野横断的な取り組みの代表格としては、2018年4月に発足した山形県の「日本海ヘルスケアネット」4)が知られています。

 これは地域医療連携推進法人の例ですが、医療連携法人は医療法人しか入れないわけではありません。「日本海ヘルスケアネット」では、日本海総合病院(630床)を運営する山形県酒田市病院機構を含む9法人(酒田地区の医師会、歯科医師会、薬剤師会のほか、市内の民間病院や社会福祉法人の特別養護老人ホーム、介護施設の運営法人など)が参加しています。設立の趣旨は「人口が減っても共倒れせずに医療や介護を維持する」ということで、透析などの診療機能の集約化、病床融通、在籍出向による人材融通、患者IDの共通化とシステム連動、医薬品の推奨リスト共有を行っていました。この取り組みは、新型コロナでも威力を発揮しました。連携法人内の病院でクラスターが発生すると人材派遣で支援、早期終息にこぎつけたのです。

 また民間病院と公立病院が連携した成功例としては、千葉県の「房総メディカルアライアンス」5)があります。ここでも、地域医療連携法人内での役割分担によって非常に素早いコロナ対応が行われ注目されました

 2020年4月に千葉県内に初の緊急事態宣言が出た翌日には、公立病院である富山国保病院(51床)をコロナ専門病院に転換、わずか2日間で既存入院患者全員を転院させ、新型コロナ患者受け入れ体制を整えています。一方で民間病院の安房地域医療センター(149床)は、救急医療拠点としての役割を担いました。この病院の感染症専門医と看護師が富山国保病院を全面サポートし、地域の医療資源を最大に生かして患者急増に対応したのです。

 このような例を取り上げると、今すぐにでも厚生労働省に理想的な病院配置を考えさせ、強制的に政府主導で統廃合を進めたくなるのが人情ですがそうはうまくいきません。

 地域医療連携法人自体は、銃撃で非業の死を遂げた安倍晋三元総理が2015年から制度化させたものですが、自然発生的な連携法人設立の動きは高齢化率40%以上という過疎に悩む地方での、それも一部の動きに過ぎません。連携法人化するだけでは大きな経済的なメリットがあるわけでもなく、病院や介護施設の集中する都市部では、お互いが競合するライバル関係ですから、現状ではこのような動きは全くと言っていいほどありません。

 厚生労働省などは、その発生背景やうまくいった原因を詳細に調べ上げているようです。連携の成功には理由がありました。例えば「日本ヘルスケアネット」では、山形県庄内地域で法人化する前からすでに過疎で深刻化した人材不足による地域内連携の動きがありました。連携法人の核となった日本海総合病院と本間病院の間では、当直医の派遣や手術の集約など実質的な連携が始まっており、お互いの顔が分かる関係性が背景となって極めてスムーズに進んでいったのです。

 つまり、“連携する相手と相互に気心が知れ信頼関係ができている”というのが、この医療連携法人の設立成功や実効のある活動のスムーズさを支えた重要な要素だったのです。残念ながら、このような連携を支える信頼関係は、政府による強制的な統廃合で容易に築けるものではありません。

オンラインによる連携の深化が
経営の大規模化・集約化の呼び水になる

 介護保険部会で分野横断の連携への誘導が強く行われているのも、将来の連携・集約化を視野に入れているからです。報酬改定の2年前から、その基本方針の議論にこれを持ち込むことで、医療・介護・障害分野での其々の関係者に他分野との連携に関心を持たせ、必要性を強く意識させます。ここには、「各団体や事業所での日々の業務で連携の動きを少しでも作り出し、信頼関係の構築を醸成して地ならしをさせておきたい。それが集約化や大規模化での成功率を上げることに大きく貢献するだろう」という狙いがあるのです。

 そして2022年度末までにマイナンバーを行き渡らせることで、2023年度にはデジタル連携が開始され、介護・医療関係者の間でも、まずは日々の請求業務や実績確認、サービス担当者会議などからリアルタイムでオンライン連携することになります。

 業務は劇的に変化し、連携が質的により濃密となるとともに、2024年度に入り「将来的に連携法人を組む先や、業務集約化のパートナーを選ぶために相手を評価する」という作業が各業界内で進行し始めることになるのです。

 次回以降では、水面下で準備が急速に進んでいる"医療DX推進"の現状をお伝えします。

引用・参考文献
1) 厚生労働省:第93回社会保障審議会介護保険部会 議事要旨 P.37(令和4年5月17日)
2) 参考:内閣官房:世代型社会保障構築会議 議論の中間整理(概要)  
 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/dai5/siryou2.pdf
3) 内閣府:令和3年第5回経済財政諮問会議 議事要旨(2021年4月26日),P.7.
 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0426/gijiyoushi.pdf
4) 介護人財Web版 介護保険制度/介護報酬【緊急配信】社会福祉連携法人制度の創設(武藤正樹)
5) 南房総市立富山国保病院の対応,亀田病院報,No.260(2021年3月号),P.7.