施設マネジメント


【第9回】 「岸田政権の誕生は
    医療介護分野へどのような影響を与えるか(中)」

正確な情報がどこにもない医療・介護業界

 岸田首相は、総裁選で取り上げた健康危機管理庁創設構想を封印しました。なぜなら、経営効率化や改革好きで剛腕な菅首相の政権下で、同じ手段が採用されなかった理由を知ったからです。

 新型コロナウイルス感染症対策においてスムーズな防疫体制の構築ができなかったのは、「司令塔機能の脆弱さ」や「厚生労働省の縦割り体質」が主因ではありません。日本の医療は7割が民間に任されていますが、これを指導する役割を担う厚生労働省は、個々の民間病院の設備や人材の詳細をリアルタイムに把握していませんでした。防疫体制構築のために最適な医療資源の再編や再配置を指示したくても、それを考えるための土台となるデータそのものが全くなかったのです。

 もちろん病院経営は許認可制ですから、定期的な指導が行われ、状況の報告は都道府県の各役所に届け出されています。

 しかし、問題はその頻度と内容です。一般診療に差し支えない人員が確保されているか数を報告させているだけで、人材の専門性や設備の詳細などをつかんでいませんし、その頻度も数年ごとです。

 このため、現場にどのような余裕があるかは、ぼんやり推し量る程度しかできません。これでは最適化を検討することも大雑把にしかできないのです。仕方がないので、人員や設備状況が明確な公的医療機関を総動員し、時間を稼ぎながら、日本医師会を通じ各地の医師会や地域医療構想調整会議の会合で個々に話し合いを行わせて、地域ごとに最適化を模索しているのです。

 ただし、検討の場にいる地元医師も自院やグループ病院のことは分かりますが、地域内の他院の現況は知りません。民間病院についても、その大半が職員100人以下の零細企業であり、会合に参加する時間も調査に協力する余裕もありません。つまり、日本国内の正確な情報を持っていないため議論が進まないのです。

 さらに状況打開を困難にするのが、自治体や医師会に医療機関の再編を行う強制権がないことです。この結果、お願いベースの要請を打診するばかりで、「総論賛成・各論反対」に陥っているのが現状です。このため、遠回りにはなりますが、健康危機管理庁創設による司令塔機能の強化よりもデジタル化を押し進め、リアルタイムで現状が把握できるような土台作りから始める必要があるのです。

 そしてさらに問題となっているのが、「零細さ」がもたらしている投資余力や連携能力の欠乏です。

日本医師会名誉会長が「強制力のある法整備を」と提言

 前述の新型コロナウイルス感染症対策における対応のまずさへの責任問題について、批判は厚生労働省と日本医師会に集中しています。

 2021年9月7日、日本医師会の横倉名誉会長が、九州経済連合会の名誉会長らと共同代表となっている「ニュー レジリエンス フォーラム」で共同会見を行いました。新型コロナウイルス感染症対応で病床確保に苦戦している反省を踏まえ、政府に対し「すべての医療機関に対して、より強制力のある法制度を整備」ならびに「憲法に明記された『緊急事態宣言』を行う制度」を検討するように共同で提言したのです1)

 横倉氏は単なる名誉職の人物ではありません。コロナ禍に突入した2020年4月まで7年間も日本医師会会長を歴任した人望のある重鎮です。その人物がこのような発言をして何も批判が出ないということは、日本医師会が正式にではありませんが、蛇の生殺しの様にじわじわ追い込まれて防疫での損害を自己責任で扱われるより、"国家による法的命令で、減収に対する国家賠償や職員の障害保障とセットで強制された方がまだましだ"と考え、民間医療業界による自助努力での調整・病床再編の限界から、事実上の白旗を上げる用意をしている状況だということです。

 日本医師会は、全国の医師33万人のうち半数を超える17万3千人が加入する巨大組織です。勤務医も加入していますが、主に開業医が主体となっています。診療報酬の加算獲得のため自民党に年間約5億円を献金し、選挙では職域票と呼ばれる集票力を武器として議員たちに大きな影響力を持っています。

 現状は、日本最大の政治的圧力団体である日本医師会がほとんど降伏しようとしており、厚労族と呼ばれる自民党議員たちからの干渉圧力も緩和されるだろうと見通せる、介護医療施策の抜本的改革の絶好の機会となっています。

介護施設も病院も「中小で零細」なところが多い

 岸田首相は、11月に入り「新しい資本主義実現会議」に加え、連携した「デジタル田園都市国家構想実現会議」「デジタル臨調」「全世代型社会保障構築会議」と矢継ぎ早に新たな検討の場を設けました。その一方でデジタル大臣に規制改革、行政改革等も併せて担当させ、規制改革推進会議などは中間とりまとめに進ませています。

 前述した新会議では、コロナ禍で行われた規制改革推進会議での提言を盛り込み、緊急事態にも対応でき将来の経済発展も両立させる解決策をじっくり検討して、デジタル化をキーワードに束ねるつもりです。

 注目されるのは、2021年4月26日に行われた令和3年第5回経済財政諮問会議2)の中で、経済産業研究所の竹森議員から「今回のコロナで分かったことは、日本は医療施設・病院で、中小規模のものがものすごく多くて、こういうものは緊急事態に貢献できるかが疑問だということ。役割分担やコーディネーションが必要だといっても、病床5とかという病院をどうやってコーディネートするのか、全国的にコーディネートするのかは難しいし、それから、ICUのような、今のような深刻な事態で一番必要な仕組みに中小の病院では投資ができない」との発言があったことです。

 また、同議員からは「保健、医療、介護の分野、ここではとくに人手不足が予想されるので、機械で代替するために投資が必要だ。ところが先ほど申し上げた介護施設も病院も中小で零細なところが多く、それが投資を妨げる要因になっている」との指摘も出ています。

 つまり今後、岸田首相が「健康危機管理」と表現している"国内で緊急事態に対応する防衛体制づくり"を行う場合に、医療・介護分野で投資を妨げる障害となるのが「零細さ」であることが最大の問題とされている訳です。

 外交や防衛方面での成果を上げたい岸田首相としては、大規模化・グループ化に焦点を定め、医療介護分野で改革を進めことになるでしょう。

 次回は、この再編がどのように進んでいくかを検討してみたいと思います。 

引用・参考文献
1)ニュー レジリエンス フォーラム 第一次提言 「緊急時」の医療提供体制と法制度の整備を(令和3年9月7日)
 https://nr-f.jp/posts/323(2021年11月閲覧)
2)内閣府 令和3年第5回経済財政諮問会議 議事要旨(2021年4月26日)
 議事(2)経済・財政一体改革(総論・社会保障)
 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0426/agenda.html(2021年11月閲覧)