施設マネジメント


【第8回】 「岸田政権の誕生は
    医療介護分野へどのような影響を与えるか(上)」

 9月29日の自民党総裁選で岸田文雄氏が勝利し、10月4日には総理大臣に就任して組閣、岸田政権が誕生しました。ここで注目されるのは、新閣僚20人のうち13人が初入閣の新人であり、大臣に求められる資質や手腕に疑問符がつくような典型的な派閥重視の論功行賞人事となっていることです。

 そして、10月31日には総選挙も行われ、若干議席数は減少したものの自民党が絶対過半数を維持し、自公連立政権は安定運営を確保しました。

 福祉分野では政権闘争を問題として取り上げることはないのですが、今回は次の2つの点で動向が注目されます。

①医療福祉分野の改革工程表に対して大幅な変更が行われるのかどうか
②厚生労働省に大きな手を加える動きが出ていること

 なぜなら、総裁選では改革のさらなる加速を進めようとしていた河野行政改革担当大臣が、厚生労働省の2分割案を披露し、さらに新首相となった岸田氏も、厚生労働省から防疫に関する分野を分離再編成して健康危機管理庁を新設することを提唱していたからです。

岸田政権は改革工程表に大きな修正を加えるのか

 現在、社会保障分野では科学的介護の導入に加え、マイナンバーの導入によるデジタル化の土台作りにおいて連携を精密に組み上げる「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を政府として策定する非常に微妙な時期です。

 行政改革や効率化の大好きな菅政権が続投していれば、この重点計画は本年9月1日に施行されたデジタル社会形成基本法に基づきデジタル庁から内閣に上程され、政府における正式な政策として閣議決定され全省庁をマイナポータルに紐付けることになっていました。この計画は、菅首相が切れ者の河野規制改革担当大臣や、自民党きってのデジタル通である平井初代デジタル大臣と共に1年をかけて作り上げてきた集大成です。

 平井デジタル大臣は、岸田派所属です。また岸田政権でもデジタル化は目玉政策としていて、その内容を強力に押し進めるつもりであるのには変わりがありません。

 その一方、過半数が初入閣の新人で占められる組閣に際して心配されたことは、初入閣に舞い上がった新人が大臣としての発言力の大きさに自覚のないまま、自身の新鮮さを分かりやすくアピールしようと思い付きで新構想をぶち上げたり、複雑に組み上がった連携も考えずに大臣間での連絡・相談なしに動いたりして、野党に付け入るスキを与えないかということです。

 このため、岸田政権は組閣発表後、新人たちに「自民党内序列を中心にした連絡・連携のラインの構築」を指示しました。甘利幹事長経由で、自民党政調会長代理でもあった後藤茂之厚生労働大臣を中心に、円滑な対新型コロナの連携と役割分担を浸透させるのが狙いです。さらに総選挙日程を前倒しすることで、新人に余計なことを考えさせる余裕をなくし、野党に付け込まれるような言質を与えない作戦も取っています。

 では、岸田首相本人は医療介護分野の改革をどう考えているのでしょうか。岸田首相は外相経験が4年以上と長く、外交課題や防衛問題を前進させることで存在感を高めたい人物です。その著作も調べましたが、社会保障や財政再建分野で独自色のある言及はありません。

 岸田首相を固めるブレーンと呼ばれている岸田軍団(岩田和親、小林史明、古賀篤、辻清人、村井ひでき)にも、政府情報システムのクラウド化や子育て支援や保育分野での独自色を持つ人物はいますが、医療・介護分野に精通する人物はいません。

 改革工程表2020において、2024年3月末まで改革の予定は出来上がっています。岸田首相は、総裁選ではアベノミクスに批判的立場を表明していました。しかし、安倍元総理が支持し政治信条も近い高市氏を自民党の政務調査会長に就け、アベノミクス継続・強化へ配慮をしていることから、次のような推測ができます。

 岸田首相は、自身は外交や防衛方面での成果を上げるのに注力したいと考えています。そこで、内政面は党内実力者である安倍氏・麻生氏らへの譲歩材料とし、重鎮たちが安倍・菅政権下で準備立案した改革路線は、そのままおいしく利用させてもらうつもりです。これを裏付けるように所信表明でも独自色は封印し、アベノミクスでの成長戦略と同じ分野への大胆な投資を行いその成果を分配するとして、「新しい資本主義を実現するために政策を総動員する」と語るだけにとどめて政策の中身への踏み込みは避けています。

マイナンバー対応は医療分野に続き介護分野での導入が始まる

 デジタル化では、この10月からマイナポータルが始動、一部の病院や薬局ではマイナンバーカードで情報がやり取りできるようになり、順次これが介護保険分野にも導入されます。

 岸田政権では、デジタル庁には初入閣の牧島かれん氏をデジタル大臣に就任させました。牧島氏はIT戦略特別委員会で事務局長を歴任、直近でも自民党デジタル社会推進特別委員会で事務局長を務めた経歴の持ち主です。

 また、10月6日にはクラウド化の実務サポートと連絡将校役を兼ねて、岸田軍団から小林史明をデジタル副大臣として送り込みました。これは、来年1月からの通常国会に向けデジタル庁の法案作成に滞りがでないようにするのが狙いです。

 このため、少なくとも2022年上半期で通常国会が終了するまで、デジタル化がマイナポータルとして最初に導入される医療福祉分野については、これまでの改革路線に影響する修正はないと思われます。

デジタル庁開庁で、今まで10年かかっていた変化が
1年で実現する時代に突入

 2021年9月1日にデジタル庁が開庁し、今まで10年かかっていた行政改革が1年で起こるようなスピードで変化する時代に突入します。これは、厚生労働省も例外ではありません。それどころか、前述のように厚生労働省が分割の憂き目にあいそうな状況です。

 今までは縦割りで、省庁ごとに個別交渉していたため、各省庁で異なる毎年の予算消化の都合で足並みはそろわず、同時に交渉を開始しても12省庁すべてが処理されるのに10年がかりの作業となっていました。

 これに対してデジタル庁には、デジタル化のためのすべての予算が集められています。この状況に対して官僚の間からは、「第2の財務省主計局が誕生した」との感想が出ているほどその力は大きな影響を与えています。

 改革工程表では、マイナンバーに対応してデジタル化を行う期限が設定されており、これに向けて各省が取り組むのですが、デジタル庁にお伺いを立てて承認されなければ肝心の予算が下りません。これにより、全省庁で足並みをそろえた工程管理で並列処理が行えるようになりました。

 しかし、縦割り的抵抗がないわけではありません。例えば、デジタル化は全国の自治体でも取り組まれるのですが、総務省では今まで自治体を仕切ってきた経緯もあり、「うち(総務省)とデジタル庁は関係ない」と公言する職員もいる状況です。

 このような発言が出るのも、デジタル化の背景となっているマイナンバーの適応範囲が「社会保障」「税務」「災害対策」の3分野であり、これら複数の機関に分散存在している個人情報を同一人物のものと確認する目的で導入されたからです。つまり、霞が関的な縦割り論法では「3分野以外は今まで通りなので、デジタル庁と関係ない」という訳です。

 デジタル庁の開庁前である昨年12月から準備作業は進んでいます。各省庁向けの作業工程の標準仕様書もこの夏までに作られており、下打ち合わせや通知も行われています。

 そこでデジタル庁開庁後の最初の大仕事は、3分野以外にマイナンバー適用を広げるデジタル社会形成基本法が施行されたことによる法的裏付けを背景に、前述したような縦割り的主張による非協力を排除してゆく重点整備計画を策定して、デジタル化での国民の利便性を高めることです。

 岸田政権でも、縦割り打破に対応できるように準備が進んでいます。厚生労働大臣に起用した後藤茂之氏は、旧大蔵省出身で霞が関的なやり方に造詣が深い人物です。10月6日にはマイナンバーポータル整備の実務をサポートするために、岸田軍団からは古賀篤氏を連絡将校兼務の厚生労働副大臣として送り込んでいます。古賀篤氏は総務大臣政務官として平成28年のマイナンバー制度開始に携わった経歴があり、この人事には岸田政権が掲げるデジタル化の目玉政策として、マイナンバー整備を最重視していることがうかがえます。

 岸田首相は10月15日にデジタル大臣に規制改革、行政改革等も併せて担当させ、デジタル臨時行政調査会の設置について検討の指示を行いました。デジタル導入が本格化すると、当然出てくると予想される縦割り的抵抗を省庁横断的に洗い出し、打破していく場として11月中旬には第一回のデジタル臨調が開かれる方向で検討が進められています。

 さらに10月25日には山際内閣府特命担当大臣に「デジタル田園都市国家構想実現会議」「デジタル臨調」「全世代型社会保障構築会議」を立ち上げるように指示しています。これらの会議はデジタルがキーワードとなっていることから、菅政権の遺産を利用し総選挙後に矢継ぎ早に実効性の高いデジタル規制改革を打ち出すことで得点を稼ぐ腹積もりであることが見てとれます。

 次回は、岸田首相の打ち出している健康危機管理庁構想が介護分野に与える影響への分析に移りたいと思います。