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〈科学的介護の導入で政府が実現しようとしていること〉
前回まで、今後数年に渡る医療福祉制度の大改定に対し、「国の考える最終的な出来上がりのイメージ」と、それを実現する「制度設計の方向性をとらえること」が大切であることをお伝えしました。
制度が大きく変わる時期には先を見通し、都度示される改定内容には修正程度の対応で済むようにしておくことが重要です。
〈未来投資戦略2017で示された最終イメージ〉
では、その方向性をより具体的に掴むため、未来投資戦略2017での最終イメージを確認してみましょう。

介護ロボットに関する資料には、「利用者の生活の質の維持・向上と、介護者の負担軽減の両方を実現するため(中略)評価・試験データ取得等を支援し、ロボット介護機器のスムーズな海外市場展開を図る。」と記載されています。
つまり、「介護保険事業所は、"開発のための評価・試験データ取得の土台"であり、"試験場"である。そこで効果を実証し改良された機器は海外市場に展開され、次の日本を支える長期運用事業として、アジアの高齢化問題の解決に貢献し、新産業として成長することを期待されている」ということです。
景気には浮き沈みがあります。そこで政府が注目したのは、OEMなどで海外移転先企業から生み出される知的財産権収入でした。
事実、2008年のリーマンショックによる景気後退は深刻で、今回の新型コロナによる緊急事態宣言でのダメージの10倍に達していましたが、知的財産権収入は年間2兆円に迫る国庫収入を維持し続け、その存在感を示していました。そして、2019年の収支は3兆4000億円までに増加したと発表されています。
現在、医療や介護には年間50兆円もの国家予算がつぎ込まれていますが、高齢者を支えるだけでほとんど終わってしまっています。
しかし、スタッフ達の血と汗の結晶を電子データとしてAI分析できるように整備すれば、カルテに閉じられて紙として棚に保管されてしまい参照できない情報を、未来への投資に転換することができます。
日本は世界に先駆けて、労働人口減少と高齢化が同時進行で深刻化するというダブルピンチを迎える状況ですが、そこから得られる貴重なデータは、知的財産権収入で国を支える産業を続々と生み出す苗床となるのです。
これが科学的介護の導入で政府が実現しようとしていることの中身です。私たち医療福祉関係者も、自分たちの老後の安定と、子供たちの未来の働き場所を創りだすことに協力して行かなくてはなりません。
〈報酬改定だけを追っても先の展開が予測できない〉
この「開発のためのデータ収集」を実現するために、今後も報酬算定での誘導が行われていきます。今後数年でどのように誘導されていくかは、KPIをもとに今回の改正と内閣府の施策を分析することで容易に推測することができます。
今までのような社会保障費の抑制が主目的ではありません。2021年介護報酬改正は、すべての介護事業者に介護データを提出させるように報酬で誘導するのが主目的です。このため、0.7%の報酬UP部分はすべて介護データ提出が加算の算定条件となったのです。
介護業界の関係者は、厚労省の動きを鵜の目鷹の目で分析しています。しかし、今や厚労省は、内閣府主導の規制改革推進会議で管理されている工程表の一部を担当しているだけです。
このため厚労省から公開される議論の推移だけでは、一部分の限定された議論しか見ていない形となり、全体の出来上がりイメージを掴めなくなってしまうのです。
〈厚労省はKPI達成を目標に動いている〉
2021年度介護報酬改定に向けて2020年9月に行われた介護給付費分科会では、「前回導入された通所介護のADL維持等加算を算定した施設が642件から1,024件に増え、算定率が増加した」と図表入りで大きく取り上げて報告されていました。

「介護福祉業界内ではこの報告に対し、給付費を検討する部会でなぜ算定施設の増加率ばかり強調して取り上げるのか、疑問に思いながらも理解できていない人が大半でした。
「大改定したのだから、第1回目の議論では前回の反省に立ち、給付費抑制のため全体を俯瞰的に眺めて無駄や無理な部分を検討するはずではないか?」「なぜ収得率2.38%に過ぎない枝葉の部分に拘るのか」というように、厚労省の意図がつかめなかったのです。
連載第1回でも取り上げましたが、厚労省は2018年度からKPIで工程管理されています1)。


介護業界では馴染みのないKPIですが、ビジネス業界では顧客満足やリーダーシップ育成など、定量的な計測(例えば、売り上げなど判りやすい数量)ではとらえにくいものを定量化して工程管理する時によく使われています。これで、目標を達成する時に指標となるものを定義するのです。
改革工程表のKPIでは、①2020年度にはデータ基盤運用が開始、②2020年度以降では提供件数が増加、の二つが達成目標となっています。
つまり、分科会での報告は、改革工程表の予定通りにデータ収集体制の基盤が運用開始され、データ吸い上げ先からの提供件数が順調に算定化で誘導され、増加していることを強調していただけだったのです。
〈2021年度介護報酬改正は、データ収得の土台作り期間の開始に過ぎない〉
医療福祉業界関係者も大改定が続いていくことには気付いていますが、国の意図をつかみかねています。
業界では、今までの厚労省の改定手法と、アウトカム評価に組み込まれているICF(国際生活機能分類)から改革の方向を推測する議論が活発に行われていますが、残念ながらずれが生じてしまっている状況です。
当然ですが、今までの報酬改定でもICFが重視され取り組まれてきています。なぜなら、国の最終イメージとして示されている「ロボット介護機器のスムーズな海外市場展開」を実現するためには、国際的に通用する基準に配慮しなくてはならないからです。
しかし、ICFを医療介護業界に定着させ深化させ向上を図るのは、表現は適切でないかもしれませんが、結果的な副産物であり主目的ではないのです。これを取り違えていると、先の展開を予測して備えることができません。
ここまでの話でお分かりの方もたくさんいるでしょうが、2021年の介護報酬改定は次々に移り変わっていく工程全体で言えば、データ収集の土台作り期間の開始にすぎません。
2018年改定では介護保険に介護データ提出が試験導入され、2021年改定ではこれが全事業所に拡大されました。介護データの提出体制が整備されれば、次回以降の数次の改定を経て評価・試験データが収集されていきます。すなわち他産業との協働による様々な機器の導入や、データ連結解析での成果を大規模導入・評価試験することが始まります。
私たち医療介護業界からすれば、毎回のように続く大改定が待ち受けているのです。
次回以降は、この最終的出来上がりイメージを実現するために内閣府で進行する「制度設計の方向性」を解説していきます。
引用・参考文献
2)厚生労働省:未来投資会議構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合
平成29年10月27日(第1回) 資料4 ④科学的介護
3)参考:社保審-介護給付費分科会 第185回(R2.9.14) 資料
令和3年度介護報酬改定に向けて(自立支援・重度化防止の推進)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000672514.pdf
1)参考:新経済・財政再生計画改革工程表2019(令和元年〈2019年〉12月19日) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_011219_1.pdf
4)参考:新経済・財政再生計画改革工程表2020(令和2年〈2020年〉12月18日) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_201218_2.pdf
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