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〈ワクチン接種で本格化する経済回復への道〉
日本の現状と先進主要国での対応
菅首相は米国関係者の間で、「あまり話さないが、発言したら実行する」と評されています。有言実行の人なのでしょう。先月に「6月中には高齢者3600万人へのワクチン接種を実現させる。1日100万人ペースでワクチン接種を行う」と宣言したとおり、すべての自治体にほぼ予定通りにワクチンは配布されています。
しかし自治体によっては予定どおり接種が進まず、高齢者への接種がほぼ終わるのは7月末にずれ込む見通しです。うまくいかない原因はワクチンの注射に従事する医師や看護師を中心とする人員確保です。
このため菅首相は、厚生労働省に協力させ医科大学生から歯科医師までかき集め、ついには自衛隊まで動員して大規模接種会場に投入し接種を進めています。
その一方で、日本は有事法制度に致命的問題を抱えているため、欧米やアジア諸国では当たり前となっている「国民に防災組織へ参加させる義務」を課せられません。つまり政府に強制権がないのです。
多くの先進主要国においては、医療介護機関は公的インフラとして警察・消防・軍隊と同じ国の安全保障の対象です。大規模な防疫では、私権は制限されます。物資は国家に優先確保(挑発も含め)され、有資格者の拒否権は停止、動員や志願参加が義務付けられます。
そのかわり動員された国民には、"収入減少への損失補償" "障碍・生命保険の国家保障" "元の職場に復帰する際に動員を理由に解雇されない"といった権利があります。動員された物資は、病院の建物や資材に至るまで返還が必要な場合に国家による損害賠償がなされるのです。このため、極めてスムーズな接種や医療機関の病床転用が行われています。
ワクチン接種の効果は?
ワクチンの大規模接種で先行するイギリスの人口は、日本のほぼ半分です。同国の推移から予想されるのは、日本での接種者が500万人を超えた時点の1カ月後から発症者が減少し始め、4000万人を超えるレベルの接種が達成された約2カ月後から発症者が10分の1に低下するということです。

日本でも5月初めに接種者総数が500万人に達しました。1カ月後の6月初めに入り感染者数は減少しており、効果が出始めているようです。また、現在一日当たりのワクチン接種数は100万人を超えていますので、接種者は月内に4,000万人を突破する見通しです。
しかし残念ながら、イスラエルの推移を見ると、ワクチンの2回接種者が人口の6割を超えても新型コロナ流行は収束していません。つまり、高齢者へのワクチン優先接種が終わって、対象年齢を下げて更なる接種を進めたとしても、少なくとも年内はマスクや消毒、面会制限の日々が続くと考えた方が良いでしょう。
「では、ワクチン接種は無駄なのか?」というと、そうではありません。新型コロナによる特効薬のない肺炎により高齢者の大量重症者発生が起これば、医療機関に通常の10倍もの負担をかけることになるからです。前述のように、日本の医療機関は法制度の不備で国家での統制管理が整備されていないため、医療崩壊し病院が経営破綻すれば多数の私企業への国費投入などスムーズに出来ず、立て直すこともできません。
ともあれ、ワクチンの大規模接種とともに待望の集団免疫獲得に向けた光が見えてきました。経済活動が再開されれば、景気回復への道筋が本格的に始動することになります。そして、ワクチン効果で新型コロナ流行を落ち着かせた成果による人気回復を利用し、菅政権は9月の総裁選、10月の総選挙を戦い長期政権となることを狙うと思われます。
〈日本の20年戦略「21世紀型 富国高福祉国家構想」〉
本連載第2回でも述べたように、日本は自動走行やドローンと言った新しい分野のプラットホームでは2周遅れと評価されています。自動車分野で世界をリードできないことが明らかとなった今、日本は今後どんな分野で世界をリードすればいいのでしょうか。引き続き考察していきたいと思います。
この解決策としての20年戦略が、本連載第1回に取り上げた「未来投資会議」と「経済財政諮問会議」で進行しています。これを私は仮に「富国高福祉国家構想」と呼んでいます。
ここでは、炭素排出量規制のグリーンディールで、国内の設備更新を喚起し既存産業の底上げを行うことに加え、国民皆保険・介護保険制度で集まるビッグデータのプラットホームを利用して医療・福祉機器分野で世界標準となり、ブランド力を育て、他地域での追随を許さぬ基盤を創り上げる戦略が練られています。

キーワードは科学的介護です。ただの科学ではありません。一定の決められたケアの手順と機器を組み合わせた時に、医薬品並みに7割以上の効果が実証できることをAI解析で証明して見せ、真似されないように商標も特許も付けて売り込みます。医療・介護の分野において海外制度でも通用する国際安全規格(ISO13482)の仕様で多数の新規長期運用事業を生み出し、世界展開して収益を安定確保する構想です。
うまく育てば、老健は介護度低減のための維持期リハビリ機関として世界各国にシステムとして売り込まれるようになるかもしれません。
〈なりふり構わぬ行政の最終的な出来上がりイメージ〉
たかが相談員が夢物語を語っていると思われるでしょうが、内閣や行政も本気です。内閣府では、昨年末にApple社の担当者と副大臣列席でヒヤリングを行っています1)。
ソフトウエア医療機器分野で評価の高い同社が、日本でアップルウオッチに搭載するECG(心電図検査)アプリで医療機器承認審査を受けました。このタイミングで、各国での審査経験値が高い同社から「日本での審査プロセスを合理化し、どのような産業の機器でも審査できる仕組みと体制を築くにはどうしたらよいか」の参考に、改善提案を聞き出したのです。
日本はハードウエアには強いのですが、ソフトウエアには弱いというのが定評です。この会合では、内閣府の担当官が厚生労働省に対して、年度中のいつまでに問題点の改善を行うかを書面で回答するように何度も確認する様子が赤裸々に描かれています。
「国の考える最終的な出来上がりのイメージ」とは、介護・医療業界で、『ソフトウエア医療機器に搭載できる様々なADL改善データが次々に生み出されるようにする』、老健では『様々な産業とのコラボレーションが行われ、アンチエイジング機器分野・各種センサー応用のロボット開発分野で実用化試験の実験場となる』ということです。
そして、その成果を受け止められる認証手続きの効率化や開発体制整備が、内閣府に主導されデジタル庁において急加速で押し進められようとしているのです。
引用・参考文献
1)内閣府:規制改革推進会議 第5回 医療・介護ワーキング・グループ(令和2年12月17日)議事概要
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/iryou/20201217/gijiroku1217.pdf
2)未来投資会議 構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合第1回
④科学的介護,平成29年10月27日(第1回) 資料4,P.10〜P.11. |