施設マネジメント


【第2回】 「加速する科学的介護の推進②
     科学的介護が導入された背景」

 科学的介護が導入される背景を理解するには、アジアで進行する高齢化、日本の少子高齢化・労働人口減少、第4次産業革命の複合した状況を整理する必要があります。少し退屈かもしれませんがお付き合いください。

〈少子高齢化はアジア全体で問題となり、外国人ヘルパーには頼れない〉

 日本では少子高齢化が進行し、2025年には団塊の世代が後期高齢者に突入すると騒がれていますが、実はアジアの新興国の高齢化は日本以上のスピードで進んでいます。

 中でも、中国の人口は12億人ですから、高齢化で一部の高所得者層が外国人ヘルパーを雇い始めただけで、世界の介護人材争奪戦は激変すると言われています。アジアのヘルパーについては、すでに台湾と日本の争奪戦が激化しているのに加え、ドイツなどEU勢力も参戦してきています。

 また、日本で外国人ヘルパーを雇用する際には、日本語教育に関する費用が発生します。その額は一人当たり400万円と言われており、このコストをどう捻出するのか、頭が痛い問題です。

 つまり、人手不足が深刻化している日本の介護業界では外国人ヘルパーに期待する声が大きいですが、それは根本的解決策にはならず、一時的な緩和効果が得られる程度と見通すことができるのです。その先行きは怪しいと考えた方が良いでしょう。


 一方で、日本政府が外国人労働者の大半を研修生としているのには理由があります。それは、日本で学んだ外国人ヘルパーを各国に戻し、将来それぞれの国々で日本の介護の受け皿とする意図があるからです。

 

〈人類史上最大の社会実験場となった日本の医療・介護保険制度〉

 誰も指摘しないのが不思議なのですが、日本の国民皆保険・介護保険制度は人類史上初の巨大な社会実験です。

 それはなぜでしょうか? 「医療・介護などの保険制度は日本が最初に始めたわけでもないし、欧米では珍しくもない制度ではないか」と言われそうですが、規模を比較すると分かります。北欧諸国の人口規模は数百万人程度ですから、日本でいえば大阪や名古屋程度。介護保険制度ではEU最大のドイツでも8,000万人なので、関東圏程度です。

 日本のように1億3,000万人といった、一桁も二桁も違う億単位に導入した例はありません。加えて、日本は国土が3,000キロと細長いので、亜寒帯、温帯、亜熱帯といった異なった気候帯で運用されている訳ですが、このような例も他にありません。これで成功すれば、亜熱帯のアジアに通用する世界標準となることが可能です。

 さらに我が国の医療保険制度には、「電子レセプト」と「DPCデータ」という、全国統一方式の電子データがあります。今までは、75歳になると後期高齢者医療制度に移行してデータが途切れてしまうため連続性に問題がありましたが、全国民にマイナンバー制度が施行され、継続して個人履歴を追跡することが可能となり、整合性の問題も解決されました。現状では、平成21年4月から1億3,000万人の全数調査が可能な状態になっています。 

 

〈進行する第4次産業革命〉

 第4次産業革命は「IT」などと言われていますが、一番大きい変化は「生産力の爆発的進歩」が世界の経済需要を簡単に超え始めたことです。

 その結果、商品を高付加価値で売れる期間は極端に短くなりました。今までは多少の遅れがあっても儲ける余地があり、誤差の範囲で利益のパイを共有、複数の会社が成功例を真似することができました。しかし、近年では1番でなければ需要の大半を奪われてしまう敗者となり、競争に勝ち残れなくなりました。

 世界規模での共通仕様の製品を作る製造業は、工場を後進国に移して収益性を確保しようとしますが、たちまち人件費は上がってしまう状況です。すでにブラジルでの生産コストはフランスと同じです。2018年には、中国での生産コストと米国での生産コストは変わらなくなりました。米国のトランプ大統領が中国叩きを平然とできたのも、工場を置くメリットがもはやなくなったからです。

 また、値段が高価格で売れる期間が短いので、同一品を大量生産するほど陳腐化して儲からなくなってしまいます。これは、お米が豊作で余った時の「豊作貧乏」と同じ仕組みです。

 この状況に対応するため、世界経済は、多品種少量生産、地域事情に合わせたセミオーダーメイド生産に切り替わりつつあります。つまり、「高価格で売れるものを、いち早くつかんで売り抜ける」のが主流となったのです。

 このため、米アマゾン、米グーグル、ZOZOなど消費者の個人売買情報を大量に収集しているデジタル市場(プラットホームと呼ばれています)の巨大企業(GAFAと呼ばれています)が、売れ筋をリアルタイムでつかみ圧倒的な市場支配力を持つことになりました。

 一方で、世界の老舗大企業では、値崩れを防ぎ収益を上げ続ける方法として「メンテナンス」と「修理補修」の長期契約で顧客を囲い込む方法(長期運用事業)を取っています。GE(ゼネラル・エレクトリック)、コマツなどでは高性能の建設機械やプラントを売っています。それだけでなく、売った後の故障予測による運用安定化・定期的補修契約で顧客が離れられないようにして、専用の交換部品を正規の価格で購入させることで、値崩れ防止と長期の収益を確保するのです。

 日本は自動車生産で20世紀をリードしてきましたが、自動走行やドローンといった分野のプラットホームでは個人情報保護や安全規制などが厳しく、2周遅れと評価されています。21世紀では、もはや自動車分野で今後は圧倒的には世界をリードできないことが明らかとなってきました。

 そこで、「では、日本は今後どんな分野で世界をリードすればいいのか?」が問題となるのです。

〈世界的にユニークな老健の存在〉

 個人情報のビッグデータを手に入れることが支配力を意味するのであれば、日本はすでに「DPCデータ」と言うプラットホームがあります。また「介護保険データ」も少し整備するだけで更に大きな力が振るえるようにできます。そして、これを利用した長期運用事業を大量に作り出し、安定収入を確保しようというのです。

 これに付け加えるべきは、世界的に見た時に実にユニークな介護老人保健施設(老健)という存在です。

 世界中で病気に対するリハビリの施設は沢山ありますが、病気ではなく高齢者の老化軽減・機能回復(アンチエイジング)を目的にしている施設サービス(老健)を大量配置した例はありません。

 アジア各国が高齢化を迎える時代を前に、どの国も社会保障の整備は遅れています。地域包括ケアの中心として在宅生活を支えるノウハウが成功すれば、将来深刻化する高齢化問題の軽減対策として注目されることは確実です。

 将来の老健相談員は、単なる入所事務受付担当ではありません。地域において老化で衰えた人に老健リハビリを勧める最前線で貢献するだけでなく、体調悪化を予測して早期に手当てして重症化を防ぎ、地域の高齢化のダメージを軽減する切り札となる役割を担うことになります。

〈大きな改定が連続して予定されていることへの注意〉

 大改定が連続することが予想される時に注意しなくてはならないのは、目の前の改定にとらわれて現状に最適化しすぎてしまうと、次回の改定で再び大きな変更を余儀なくされることです。

 今後数年は、大改定続きです。毎回大きく変えられることを念頭に先を見通し、改定が行われても修正程度で済むように行動しなくてはなりません。

 そのためには、「国の考える最終的な出来上がりのイメージ」と、それを実現する「制度設計の方向性をとらえること」が大切です。

 

引用・参考文献
1)第2回未来投資会議(平成28年11月10日) 資料7,P.1〜3.