施設マネジメント


【第3回】 「日本語初級者に対するOJT」

 第三回目の今回は、従来型特養で留学生(N4)を受け入れた主任の経験から、"日本語初級者に対するOJT"をテーマにお話したいと思います。

1.正職員としてのスタート

 当法人で正職員として採用された職員は、基本的に従来型特養の介護職としてスタートし、その後ユニット型特養やデイサービスなどの在宅サービス、生活相談員やケアマネジャーといったように、様々な所属や職種を経験しながらリーダー層へと育成していきます。

 一方、留学生はそのスタートラインに立つ前に、日本人の高齢者の生活や文化を知ってもらうため、グループホームで9か月間アルバイトをしてもらいました。現場では、介護職としてというよりも"日本語の実習生"という認識で受け入れていたようです。

 その後、従来型特養に配置転換し、"介護福祉士養成校に通いながら働く非常勤職員"である留学生へのOJTが始まりました。

2.OJTでの工夫

 一般的に"OJTの4手順と3原則"(資料1)と言われている項目について、日本語初級者である留学生ならではの配慮を説明したいと思います。

①Show(やってみせる)

 グループホームでのアルバイト期間、留学生は比較的ご自身の身の回りのことができる認知症高齢者と過ごしてきました。しかし、従来型特養への配置転換後は母国では身近で見たことがない重度の利用者を前にして、その介護にとまどっていたようです。

 このような場面は、「ご自身でできることが少なくなっても、最後まで尊厳を守る」という介護の基本を伝える絶好の機会となります。方法はさまざまに考えられますが、日本語初級者に対しては言葉で説明するよりも、ご利用者に接する日本人職員の振る舞いを見せる方がよいでしょう。

 この後に説明する"Tell(説明する)"の場面では、どうしても日本語能力が問題になってきますので、日本語初級者にとってはこの"Show(やってみせる)"という非言語のOJTが非常に重要です。例えば当法人では、留学生への移乗介助の指導場面では、リフトやトランスファーボードをご利用者だけでなく職員も使いながら、使用方法を何度も見せました。このように日本人より長い期間先輩職員について見学をしてもらってから、徐々に独り立ちできるようにサポートしています。

 また、介護現場のOJTで問題になるのが、"指導にあたる先輩職員によってケアの仕方が異なること"や"説明の仕方によって「人によって言うことが違う」と困惑させてしまうこと"です。そこで、特に留学生に対しては、最初のうちは同じ職員が指導につくように配慮しています。

②Tell(説明する)

 留学生に業務の説明をしてもなかなか伝わらず、苦労しました。業務のマニュアルやシフトごとの仕事内容の指示書にはすべてにルビをふりましたが(資料2)、介護福祉士養成校にもまだ入学していない段階では、介護の専門用語を日本語で説明されても理解することが難しい様子でした。

 ジェスチャーで説明するにも限界があります。また、日常の業務で使う単語を理解しているかどうかをうやむやのまま進めることは、思わぬ事故にもつながります。そこで、最初は介護の基本的な専門用語を母国語で確認できる書籍*を使用しながら説明しました。私たちは普段聞いたことがない専門用語でも、漢字を見れば意味を察することができますが、非漢字圏から来た留学生には難しく、この書籍には大量の付箋が付きました。(この書籍はN2に合格している留学生が現場の主任に推薦したものですが、実は日本語教育支援の会の夏の特別講義で使用した書籍でもあります。)

 日本人の新人職員のOJTでは、このタイミングで質問がでたり、逆にこちらから質問したりすることで理解度を確認できますが、日本語初級者の場合、自分がわからないことを日本語で説明することもなかなか難しいようです。

*「はじめて学ぶ介護の日本語 基本のことば」
 三橋麻子、丸山真貴子、堀内貴子、西己加子著 スリーエーネットワーク

③Do(やらせてみる)

 日本語初級者の場合、業務に不慣れなだけでなく、日本語の指示通りにできているのか不安を抱えながら業務についているように見受けられます。そのため、やって見せ、説明を加えても、一人でやらせてみるとパニックになってしまう場面もありました。それからは、やって見せることを丁寧に行い、移乗介助の場面では実習生とペアでやらせてみるなど、自分のケアに自信を持てるように指導するよう心掛けています。

④Check(評価・追加指導)

 簡単な日常業務ができるようになった後、ご利用者一人ひとりにあわせた対応ができるようになったかどうか、またそのケアが他職員と同じレベルでできるようになったかどうかを評価する必要がありました。そこで、離床介助・移乗介助・トイレ誘導時の注意点を利用者ごとに一覧にまとめ、利用者一人ひとりの特徴にあわせた個別対応ができているかを、10人の日本人職員がチェックし、全員のチェックが終わったら独り立ちを認めるという仕組みを作りました。

 現在は留学生だけでなく、日本人の新人職員のOJTでもこの方法を取り入れています。チェック表(資料3)には指導した日付と指導者名も記録しますので、誰が誰の指導に入ったか、新しい職員はどの程度まで回数をこなして介助に入っているかを把握し、独り立ちの目安としています。

 また、申し送りを読んできちんと理解できておらずミスをしてしまった時は、さらに理解を深めてもらうチャンスです。小さなミスでも命に係わる事故につながる危険性があることを、改めて認識できるようにアプローチするとよいでしょう。例えば、当法人ではご利用者のお名前と食事形態を間違えて配膳してしまうヒヤリハットがありました。その際には、頭ごなしに怒らず、なぜその間違いがダメなのか、首が絞まるジェスチャーも交えて「窒息」のリスクを伝え、理解できるまで指導しました。

3.まとめ

 当法人での日本語初級者のOJT場面を振り返ると、留学生だから特別に行ったことももちろんありますが、ほとんどは日本人職員の育成にも必要な支援を丁寧に行ってきたことに気づきました。反省点としては、「日本語初級者を受け入れるのが初めての介護現場に対して、どのくらいの日本語レベルの留学生なのかがうまく伝わっておらず、そのための準備をしておくことができなかったこと」と、「留学生をどのくらいのスパンで当法人が支援していくのか、どこまで育成するのかといった意図や計画も十分に共有することができなかったために現場がかなり試行錯誤しながらの受け入れになってしまったこと」があげられます。

 しかしそれ以上の成果もあります。日本語初級者を受け入れたことで、これまで感覚的に理解していたことを文章化し、共通理解を持つことができるようになりました。また、日本人の新入職員の育成においても能力の到達レベルや独り立ちの目安をはっきりさせることができるようになりました。

 言葉の壁はありますが、留学生が働きやすい職場を目指すことはすべての職員が働きやすい職場づくりにもつながり、結果としてご利用者によりよいケアを提供することができるのだと感じています。