1・はじめに
介護事業所に於ける介護リーダーは、その役割によって介護部長のような全体をまとめるトップリーダーと、フロアーリーダーのような中間管理を行うミドルリーダーと、ユニットリーダーのような現場を指揮するロワーリーダーとに分けられる。
介護リーダーに与えらる使命は、どのリーダーに於いても、顧客満足(Customer Satisfaction……以下CSと表記)、従業者満足 (Employee Satisfaction……以下ESと表記)、組織満足 (Organization Satisfaction……以下OSと表記)の3つの満足を充たすよう、それぞれの目標を立てて業務を遂行することである。
しかしそれら3つの満足はそれぞれの立場があり交わることはない。
例えばCSではできるだけ安価で優良なサービスを多く受けたいと望むであろうし、ESではやりがいがありかつ給与や休みなど充実した待遇が受けたいであろうし、OSではできるだけサービスを充実し売り上げと業績を伸ばし、経費を抑えかつ人財を育てたいと考えることであろう。
つまりCSを立てればESとOSが減り、ESを立てればCSとOSが減り、OSを立てればCSとESが減る仕組みとなっている。
よって介護リーダーが業務遂行するに当たってマネジメントする際は、CS、ES、OSそれぞれの落としどころを見出し、あそび(愛情・尊敬・美徳)心を基本とし、より良い加減に納めなければならない。(図1参照)
例えば夏祭りのイベントを開催するとする。ところが夏祭りに際して、準備などで職員の手が取られて利用者のケアに十分手が回らない状況が生じたり、職員の残業が増える事で職員が疲弊したり、残業代が嵩むことにより組織の資金繰りに支障が出たりする。
そんな時、利用者には夏祭りの準備の説明を行い、祭りの熱が伝わるように飾りつけなどでムードを高めることでケアの喪失感を減らし、従業者には役割を分担し、チームでの達成感を持てるように士気を鼓舞することで喚起させ、組織には報連相を密にし理解と協力を依頼することで信頼を勝ち取るようにする。
結果、夏祭りが成功裏に終える事が出来た折には、CS、ES、OS三方一両損の末、夏祭りの充実感によりCSが、達成感によりESが、貢献感によりOSが充たされるのである。
介護リーダーがマネジメントする際、この匙加減が難しくもあり、介護リーダーの腕の見せ所でもある。
では以下にCS、ES、OSについて、介護リーダーが知っておくべき基本を述べてゆく。
2.顧客満足(CS)
1)CSを満たす3つの根拠
顧客の満足は欲求(ニーズ)と科学的根拠、社会的根拠の交わるところにある(図2参照)。本人の意思が一番重要なことは勿論であるが、科学的根拠や社会的根拠をも考慮しながら利用者本人の意思でケアを選択する事が、結果的に一番最良のCSにつながるのである。
欲求(ニーズ)とは、心理学者アブラハムマズローの欲求の5段階説では(図3参照)、欠乏欲求といわれる生理的欲求(食欲・排泄欲・睡眠欲といった生理・本能的な欲求)、安全欲求(心身の安全に対する欲求)、社会的欲求(家族や友人、社会から受け入れてもらいたいという欲求)、承認欲求(他者から尊敬されたい、認められたいという欲求)と、存在欲求といわれる自己実現欲求(自分の人生観の中であるべき自分になるという欲求)とに分類している。
介護事業全般に於いて、欠乏欲求、特に生理的欲求に対するケアの割合が多い傾向は否めない。
しかし殆どの高齢者が「延命は望まない」とおっしゃる。つまり「人に迷惑をかけてまで生きながらえることを善しとしない」美徳が備わっているからである。
ならば介護リーダーは、利用者が人に頼らなくてもよい、出来るだけ自立した人生が送れるよう、「這えば立て、立てば歩けのケア心」を持って、利用者がより高いレベルでの欲求が充たせるよう関わって戴きたい。
【 科学的根拠 】
科学的根拠とは、栄養学・医学・薬学・科学・生物学などの理論・学説を指し、多くのケアに取り入れられている。
具体的には、食事で糖尿病の利用者には炭水化物を控えること。透析を受けている利用者にはカリウム制限の食事が適していること。標準的感染防止対策として1ケア1手洗いを行いマスクを着用すること。生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満)は動脈硬化を促進し、脳卒中、虚血性心疾患を招くこと。骨粗鬆症や転倒は骨折のリスクを高めること。転倒・転落による骨折は大腿部頚部骨折、脊椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折が多くみられること等々である。
リーダーは利用者がケアを受けるに当たって、正しい選択が出来るように科学的根拠をインフォームドコンセント(説明と同意)する必要がある。ならば介護リーダーは豊かな知識を持ち合わせなければならない。
【 社会的根拠 】
社会的根拠とは、家族・経済状況・道徳・宗教・法律・天変地異など、利用者を取り巻く社会的な事象を指し、これをもとに多くのケアは実践されている。
具体的には、単身・独居の方の後見人等の選定。ご家族や後見人による通帳管理等の利用者の財産管理。利用者の事故や病気治療に於ける家族・公的関係者による方向性の選択。身体拘束などの虐待の禁止。事業所に於いて知りえた利用者の秘密保持、地震・火災・台風・水害などの天変地異・事故に於ける対応。事業所に於ける他者を巻き込む宗教活動や政治活動の禁止、施設に於いては、利用者の望む仏壇の利用と信仰の自由等々である。
リーダーは利用者がケアを受けるに当たって、正しい選択が出来るように社会的根拠をインフォームドコンセント(説明と同意)する必要がある。ならば介護リーダーは豊かな良識を持ち合わせなければならない。
しかしこれらCSに於ける欲求(ニーズ)、科学的根拠、社会的根拠という3つの根拠は中々交わることがない。
例えば、利用者は75歳男性で糖尿病性腎症を患い透析を必要とするが、本人が延命を望ずシャントを造ろうとしない(ニーズ)。家族は延命を望み透析を強く望んでいる(社会的根拠)。医師も治療効果が望めるので透析治療を推している(科学的根拠)とする。
このケースの場合、本人のニーズだけを充たしてターミナルケアとするのがCS(顧客満足)と言えるのかというとそうではない。しかし家族や医師のいう事が倫理的正義だとして利用者本人の意思を無視して良いのかという訳でもない。
この場合は、本人の思いを傾聴し、生きる選択が出来るように説得する事が3つの根拠の落としどころのように思われる。
このようにCSを充たすためには、決して本人が良ければそれで顧客の満足が充たされるというものではなく、家族が納得すれば良いというものでもなく、科学的に正しいことをすれば良いというものでもないのである。
2)CSの根幹
CSの基本は「タイヤ」(図4参照)である。車と同じで、人生という道を長い間走り続ける為には、足元のタイヤをメンテナンスする事が一番重要である。
タイヤは方向性を決める前輪のタイヤと、駆動する後輪のタイヤとに分かれている。
人が人生の方向性を決める時は、楽しい方向にハンドルを切り、居場所のある方向にハンドルを切り、役割のある方向にハンドルを切る。
よってケアをする際は、楽しみ、居場所、役割が見出せるように支援しなければならない。
また人生は方向性を決めるだけでは走れない。走る為には駆動する心身の力が必要となる。つまり体力がなければならないし、意欲がなければならないし、更には病気に罹患しない、もしくは病気と上手く付き合えなければならない。
よってケアをする際は、体力が付くように、あるいは意欲が湧くように、更には病を予防もしくは病と上手に付き合えるように支援しなければならない。
これら前後輪のタイヤのケアメンテナンスが行き届かない時、利用者の人生は立ち止まってしまうのである。

前述の「75歳男性糖尿病性腎症で透析が必要」のケースの場合なら、おそらく前輪の楽しみと役割、後輪の意欲と病のメンテナンスが必要になると思われる。なぜ生きる希望がないのか、病は辛いのかなど傾聴し、病気と付き合いながらも、楽しみと家庭や社会で生きる役割を見出してゆけるよう関わるのである。
介護リーダーはまず、どのタイヤにメンテナンスが必要なのかを見極め、欲求(ニーズ)と科学的根拠、社会的根拠の交わるところを見出し、良い加減に落とし込む事が重要である。
3.従業者満足(ES)
介護の仕事に従事するESを形成するものは、動因(ドライブ)と誘因(インセンティブ)と環境であり、ESの根幹は「物(給料・福利厚生等)」と「心(仕事の充実・生甲斐等)」と「身体(健康)」にある。(図5参照)
介護の職場で一番ESにつながるものは動因(ドライブ)である。つまり仕事に対するやりがいや生きがいである。
介護に従事するきっかけとなるのは、やりたい職種・仕事内容と答える人がトップで39.7%を占める。また能力や資格が生かせるという意見も多く全体の3位で34.2%にも及ぶ。(図6参照)


また実際、介護事業所で仕事の喜びを聞くとき、よく耳にする言葉として「入居者(利用者)が喜んでくれた。入居者からありがとうといわれた」というものがある。これなどは正に介護のやりがいや生きがいに通じるものである。
介護の基本は、食事・排泄・入浴といったADL(日常生活動作)支援や、炊事・掃除・洗濯といったIADL(手段的日常生活動作)支援であることから、日本の文化に照らし合わせてみると、家庭に於ける女性の役割である家事・育児に通じるところや、母性を生かした仕事と云える為、日本に於いて介護は女性に合った仕事と言える。
そのことは数字にも表れていて、介護施設に於ける74.2%、訪問介護に於ける89.6%が女性職員である。(表1参照)
勿論これは介護者に適した性差という事もあるが、要介護高齢者自体女性の割合が多く、多くの女性は男性からのケアを好まれない傾向にある為、利用者側の要望という面も大いに関係していると思われる。

男性の多い職場に於いては、出世や給与など誘因(インセンティブ)がESにつながりやすい傾向にあるが、介護は女性の多い職場である為、介護に従事するきっかけの2位が"通勤が便利"38.1%、4位に"労働時間・休日・勤務体制が希望に合う"の28%が有力な誘因となっている。
つまり介護の職場に於いて介護リーダーは、従業者の胸に響く「利用者に良いケアを行う」という動因を高める事に心血を注ぐことがESにつながると心得ておく必要がある。
しかし家庭や職場など、環境に問題がある場合、従業者のモチベーションが低下し、退職につながるので、介護リーダーは従業者個々と報連相を密にし、細やかな情報収集を行う必要がある。(図7参照)
例えば結婚・出産・育児の情報は密に取り、組織に保育所の設立や育児休暇の意見具申したり、組織や上司・同僚の不満などは感情的に処理せず、傾聴し業務改善したり、精神安定が図れるように取り計らい、腰痛などの身体の異常には素早く気付き、休息を取らせて受診を促したり、ボディーメカニクスの研修を行ったりする必要がある。

4.組織満足(OS)
介護事業のOSを形成するものは、人とものとお金であり、OSの根幹は「法人の成長と安定」である。(図8参照)

【 人 】
ここで云う人とは「人=人財育成+人財確保」である。この人創りがOSにつながる。
人材育成の基本は「知・情・意」である。つまり優れた「知(識)」と豊かな「(感)情」と強い「意(志)」を育てる事である。
介護リーダーとして従業者の知を育てる為には、日々のOJT(一緒に業務に付いての指導)による細やかな教育、申し送りやカンファレンスなどでのワンポイントレッスンなどと定期的な内・外部研修会などによるOFF-JT教育を、年間計画などに盛り込み計画的に行う事が大切である。
介護リーダーとして従業者の情を育てる為には、あそび(愛情・尊敬・美徳)心を身に付けさせることである。その為にはまず自らが範を垂れる事が大切である。つまり指導する相手に愛情を注ぎ、敬意を示し、それらが美徳として表現できるように、常に感謝し、感動し、優しく敬語を用いて接するなど手本を示すことである。そうすればおのずと指導される側はそれらの感情を身に付けてゆくはずである。
介護リーダーとして従業者の意を育てる為には、介護の理念をしっかりと伝達してゆく事である。ここでいう介護の理念とは働く法人(職場)の理念である。法人の理念を形骸化させてはならない。職場に於ける人財育成において、自らの思いを押し通していてはチームワークが乱れ良いケアにはつながらない。ケアチームをワンチームとする為には、強い理念が必要である。
次に人材確保についてであるが、トップリーダーを除く介護リーダーの役割としては離職防止を図ることに主眼を置かなければならない。離職防止については前述のESの環境の記載をご参照戴きたい。またトップリーダーの人材確保に於ける役割は、今後の各論の中で述べてゆく。
【 もの 】
ここで云うものとは「もの=書類+もの(消耗品・備品・物品・車両・建物等)」である。このものを守る事がOSにつながる。
ものは目的ではない。ケアにおける手段である。しかしものが無ければケアの目的である利用者のQOLを極めることは困難となる。ものを大切に扱いメンテナンスを施すことで、より良いケアにつながることは火を見るより明らかである。
ものの管理で、介護リーダーとして管理しなければならない重要なポイントは2つある。1つは介護に関する関係書類の管理であり、1つはものの取り扱いである。
介護に関する関係書類の管理について大切なのは、記載とファイリングである。
記載やファイリングに関して、当然介護リーダーがすべて行う訳にはいかない。スタッフに行ってもらわなければ現場は回らない。大切なのはスキーム(やり方と仕組み)作りとラウンド(点検・チェック)である。
ものの取り扱いについては、おむつや事務用品などの消耗品の出し入れ、ベッド・車椅子・入浴機器などの介護備品の掃除やメンテナンス、OA機器・掃除機・洗濯機など備品の管理、施設の掃除や空調機器の調整など建物の管理、社用車の管理、タイムカード・ロッカー・ユニフォームなど職員の管理、食事の管理や水・食料品など備蓄品の管理等々上げきれないほどの業務をこなしている。
これらの管理についても書類の管理同様、大切なのはスキーム(やり方と仕組み)作りとラウンド(点検・チェック)である。
これらものの管理はオーソドックスな方法であるが、マニュアルを作成し、スタッフに申し送りなどで啓蒙すると同時に周知徹底し、実施させ、チェックする方法が一番効率の良い方法といえる。
【 お金 】
最後にここで云うお金とは「お金=売上+資産(流動資産・固定資産)+負債等」である。
日本に於いて介護事業は複雑である。株式会社のような営利法人から、社会福祉法人・医療法人・NPOなど営利を目的としていない公益法人まで事業に参画できる仕組みとなっているからだ。
株式会社の目的は利益の追求にあるのでお金が目的である。しかし現場でのケアという行為はお金を目的としていない。逆に公益法人はお金を目的としておらず、それぞれの法人に準じた目的がある。しかしそれらの法人もお金が回らなければ存続できないから、お金はとても大切なものとなる。
要は日本国家が創造した介護保険というスキームによって、日本では介護という慈悲の行為と俗的なお金という相反したものをアウフヘーベン(止揚)しなければならなくなってしまったのである。
例えば施設なら、満床率、稼働率を上げることが売り上げに直結することから、組織はこれらの値が低い時「入居者を埋めなさい」と指示することであろう。
しかし現場では「職員が居なくて(利用者が重度化して)大変なのに、上の人達(組織)は満床にしろといって私達の事を考えていない」とか、「上の人達(組織)はお金の事ばかり考えている」といった意見をよく耳にする。
このような時介護リーダーも介護スタッフと一緒になって、感情的になってはならない。売り上げの向上は、入居者の待遇にも職員の給料にも反映する事であり、何よりも満床になるという事は「あの施設で介護を受けたい」という証であり、当該施設が地域や社会から認められている事に他ならない。
ここで介護リーダーとしてOSを整える方法は、お金の概念を介護現場の概念に変換する事である。
満床率、稼働率が上がらない理由は空床と外泊である。空床を無くし満床率を上げるには営業が一番の方法である為、介護リーダーの役割とは言い難い。しかし稼働率を上げる外泊を抑える事なら現場で行う事ができる。勿論自宅に外泊するなどの外泊を抑えることはやってはならないことだが、病気や事故、怪我による入院外泊は防ぐことができるという意味である。
つまり売り上げの向上を介護現場では、利用者の立場に立ち入院外泊を防ぐことで貢献すればよいのである。すると自ずとOSは充たされる。
この為には、ヒヤリハットや事故報告書、入院傾向を分析して、「今年はインフルエンザが流行ると予測されているので、スタンダードプリコーション(手洗い・うがい・マスク・手すりやノブなどの消毒)を徹底いたしましょう」とか「昨年転倒による骨折が4件発生しています。ヒヤリハットや事故報告書の分析でケアの3原則を決定致しました。ケアの際は"マンツーマンで行う""声を掛け合う""目を離さない"の3原則を遵守して下さい」などケアにつなげるようにする事が大切である。
5.おわりに
介護事業に於いてはCS・ES・OSの3つの満足が充たされなければ維持してゆく事が難しくなる。介護リーダーはこの基本事項を体得しなければならない。
この基本事項を体得すると同時に3つのスキル、コンセプチュアルスキル(概念化能力)・ヒューマンスキル(人間関係処理能力)・テクニカルスキル(業務遂行能力)を磨いてゆかねばならないのである。
次回からはこれら習得すべきスキルについて述べてゆく。
参考文献:介護リーダー役割発揮のための基礎50 中央法規出版石郡英一
ISHIKORI METTOD(カンボジア日本技術大学介護教科書)
財)社会福祉振興・試験センター資料
【出典】平成27年度介護労働調査(財団法人介護労働安定センター) |