リーダーシップ


【第1回】 「介護リーダーの役割」

1・はじめに

 日本の高齢者介護が国策として始まったのは、1989年のゴールドプラン(高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略)である。

 ゴールドプランは当時、特別養護老人ホーム24万床、老人保健施設28万床、ホームヘルパー10万人等を目標にスタートしたが、誕生してから30年が経過した現在、介護を取り巻く環境は大きく変化した。

 2000年には「介護保険」が施行され、介護が措置制度から契約制度へと変わった。介護が「施し」から「サービス」へと変化したのである。

 介護サービスは、介護保険開始当時1992年にバブル経済が破綻し、国民の生活が苦しくなっていた影響もあり、「サービスあって利用なし」と言われるほど利用者が少なかったが、次第に利用者が増え、2005年以降はシルバー産業と揶揄されるようになった。

 すると介護サービスの幅はどんどん広がり、従来介護の主流と考えられていた特別養護老人ホーム、老人保健施設、訪問介護の他に、介護付き有料老人ホーム、デイサービス、サービス付き高齢者住宅などが勢力を増していった。

 要介護者の変化も見逃せない。2010年以降要介護者は重度化すると同時に医療依存度が高くなり、認知症の増加が著しくなった。同時に2015年以降は人材不足が叫ばれるようになった。

 要介護者の増加に伴い、医療・介護従事者人口は毎年20万人を超えて増え続け820万人を超え、小売・販売(1位)、製造業(2位)に継ぐ3位の就労人口を誇るまでになった。しかし、2017年は3万人の増加にとどまり、人材不足が叫ばれるようになり、現在では外国人労働者に救いの手を求めるようになってきている。今後は介護ロボットの勢力が増してゆくに違いない。

 これから先、情報機器は5Gの時代に入り、2025年には地域包括ケアの区切りの目標年度が訪れ、2030年にはSDGsの区切りの目標年度が訪れ、人口が漏斗化する2040年問題が訪れ、2045年にはシンギュラリティー(技術的特異点)が訪れると考えられている。

 しかし現在の職業の90%が無くなると言われているシンギュラリティーの時代が訪れても、ホスピタリティーと呼ばれる介護・看護の仕事は無くならないといわれている。

 私はこの業界に入って40年が経過したが、時代とともに変化する介護の流れは凄まじいものがあり、今後も同様と考えられる。そこで、介護はこの先どう歩むべきなのかを、介護の先頭を走るリーダーの仕事を通して述べてゆきたい。

2.介護とは

1)介護の本質

 この連載は計6回に及ぶ予定だが、介護リーダーの仕事を述べる前に、大切な事を述べておかなければならない。それは介護の本質についてである。

 介護の本質はあそび(愛情・尊敬・美徳)心にある。あそび心とはものの考え方・見方であり哲学である。

 この地球上に生きる動物、魚、両生類、爬虫類、鳥類、植物など、ありとあらゆる生物の究極の生きる目的とは「種の保存」といって過言はない。種の保存とは突き詰めれば、食べる事、生殖活動すること、子育てをすることである。

 生物に共通する事は、子育てに関連しなくなった時点でその個体は間引かれるか自然淘汰されるのが自然界の掟である。自然界では高齢となりあるいは障害を持ち、種の保存に関われなくなった個体は死を享受しなければならない。

 しかし人間は要介護者や障害者を介護する。この生物の生きる目的に相反する行為が「介護」である。要介護者や障害者の生活を支援し、社会の一員として受け入れ共存する介護という行為は、人間である証明であり、ものの考え方・見方を示す哲学なのである。

 動物は大脳皮質で思考する。その多くの種は生物の本能である旧皮質が大脳皮質の大部分を占めているが、人間の大脳皮質は本能である食べる・排泄する・眠る・生殖する・子育てするといった旧皮質が1割しかない。残り9割は新皮質と呼ばれる皮質で、人間が進化の過程で獲得し、海馬に埋め込んでいった記憶である。

 その記憶の中には、火を使う事、2足歩行する事、言葉を使う事、道具を使う事など多くの記憶が埋め込まれているが、その中に人間は「愛」と「尊敬」と「美徳」を埋め込んでいったものと考えられる。

 愛は何より尊いもの。尊敬(リスペクト)は何より尊いもの。美徳とは愛と尊敬を持って行動することである。例えば自分の食べ物を人に差し上げたり、寒さに震える身体に毛布を掛けてあげたりすることや、尊敬を敬語で表現することも美徳である。これらはすべて介護の本質である。

2)介護の在り方

 「介護はサービスである」これは日本の社会が創り出した制度であり、介護の在り方ではない。介護の在り方は、あくまで対象者のQOL向上を追求するところにある。

 QOLとは、食事や排泄、睡眠などのADLを整えたり、炊事や洗濯、掃除などの生活の質を整えることから、病気の世話やリハビリ、健康診断などの生命の質を整える事や、趣味の活動や人間関係の調整、社会的参加などの人生の質を整える事まで幅広い範囲を指す言葉である。

 QOL向上を追求する為の介護は、出来ない人を助けるという上位に立った気持ちや、出来る範囲で助けるという消極的な気持ちではなく、対象者の出来るように支援させていただくという美徳を持ち、出来るように努力するという積極的な行為でなければならない。同時に老いや障害あるいは病を人格として捉えない姿勢が大切である。

 これは例えば「吸痰が必要な方は受けられません」などと障害を一括りにして人格として捉え、消極的な姿勢を示すのではなく、「○○様は吸痰をご自分でなさることが難しい方なので、私共の施設で○○様の吸痰を行うためには、外部研修を受け吸痰技術を導入しなければならない」などと、○○様の人格を尊重し、QOL向上に積極的に取り組む姿勢を持つことである。

3.介護サービスと組織

 ここまでは日本の介護制度の流れと介護の本質について述べてきた。次に介護実践の場について述べてゆく。
介護は何も特別な事ではない。例えば家庭内でおばあさんが認知症を患ったり、おじいさんが転んで骨折したり、子供が交通事故にあって頸椎骨折し手足が動かなくなったり、介護は人間の生活の中でいつどこででも発生する可能性がある。

 しかしながら、日本では高齢化率の上昇、あるいは核家族化、高齢夫婦世帯の上昇、少子化などに伴い、家庭内での介護は難しくなっているのが現状である。

 そういった社会の流れを受けて、日本では介護という行為を、国民の共同連帯と位置づけ介護保険が創られた。その中核であるフォーマルサービスを担うのが介護保険上の介護事業所という事になる。 

 その介護サービスを複数人に提供するに至っては、24時間体制でQOLを整える必要があり介護者間の連携が不可欠となる為、組織的に事に当たらなければならない。そこで組織体制が重要となってくる。

 組織の中では組織運営の為に、経営・運営のトップマネジメントを担い責任を取るトップマネージャー、経営陣と介護の現場とをつなぎファシリテーションするミドルマネージャー、介護現場を切り盛りするロワーマネージャーなど、それぞれの役割に応じた役職が必要となる。

4.介護リーダーの資質

 介護リーダーの資質は、豊かな「情」と優れた「知」と強い「意」が備わっていることが望まれる。それらが備わっていないと、介護リーダーの役割を果たすことは難しい。

 豊かな情は、介護という職種には欠かせない資質で、あそび心はまさにこの情、つまり感性・感情が基礎となるものである。

 情を磨くためには、常日頃から感謝する事や物事を素直に捉え感動する事を心掛ける事である。それによって感受性、直観力を身に付けることが出来るようになり、豊かな感性・感情が育まれるのである。

 優れた知とは、物事を論理的にとらえ分析し、より良い答えを導き出す知性や才能の事である。これらの英知は先見性や洞察力を生み、同時に俯瞰力、多角的視野などをも持ち合わせる事となる。

 知を磨くためには、常日頃から一つの文字、一つの事柄に対して「だいたいこんな感じ」などと曖昧にせず、「何?」「なぜ?」と探求心を持ち、物事を深く考える癖をつける事である。

 ちなみに私は学生時代、バイト先の上司に新聞1面のコラムを読むよう勧められ、分からない漢字は辞書を引き、分からない内容は図書館に行って調べ、毎日コラムを熟読する事でこの癖を付けた経験がある。

 強い意とは、あそび(愛情・尊敬・美徳)心という介護の本質を捉え、介護に邁進させる意思力でリーダーの根本となる資質である。この意思力は真の強さとなり、行動力や問題解決能力にも繋がる。同時に適応・応用力、柔軟性も兼ね備えておくと尚良い。これらの意思は人間形成の過程で、情と知によって作り出されてゆくものである。

 しかし介護マネジメントにおいて、情は重く大きく、資質の大半を占めると言っても過言ではない。逆に意志の占める割合は少ない。しかし、意思力を感情と英知の中心の軸として、介護マネジメントしなければ、介護の情の駒は回らない。「高齢者が好きだから」などという、情を底にしてはならない。重い情を回すためには「介護はあそび心である」といった強い意思を軸に回さなければならない。(図1参照)

5.介護リーダーの種類と3つのスキル

 介護リーダーの役割を性質から分類すると、トップリーダーとミドルリーダーとロワーリーダーの3種類に分類することができる。(図2参照)

 介護のトップリーダーは法人全体としてはミドルマネジメント(中間管理)を担い、介護運営のみならず法人経営・管理に於いても重要なポジションである。

 介護部門に於いてはコンセプチュアルスキル(概念化能力)とヒューマンスキル(人間関係処理能力)を用いる割合が多い仕事で、名称は様々だが介護部長など介護部門を統括するような役職を担う。

 ミドルリーダーとロワーリーダーは法人全体としてはロワーマネジメント(現場管理)を担い、介護運営の要のポジションである。

 この内ミドルリーダーは、介護部門に於いてテクニカルスキル(業務遂行能力)、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルを均等に用いなければならない仕事で、名称は様々だがフロアーリーダーなどエリアをまとめる中間管理職のような役職を担う。

 ロワーリーダーはテクニカルスキルとヒューマンスキルを用いる割合が多い仕事で、名称は様々だがユニットリーダーなど現場の小部隊を束ねる役割を担う。

6.介護リーダーの役割

1)役割の具体的内容

 それぞれの介護リーダーの役割は、3つのスキル(図2参照)を活かして3つのサティスファクション(満足)(図3参照)項目を満たすよう、それぞれの役職が各役割を担うことになる(表1参照)

 コンセプチュアルスキルとは、以下に記す3つの満足の目標を立て、目標が達成できるよう、遂行してゆく道筋を示すことが出来る能力である。

 ヒューマンスキルとは、3つの目標を達成するためスタッフを束ね、職務を全うするよう人間関係を整えることが出来る能力である。

 テクニカルスキルとは、3つの目標を達成するための業務を遂行できる能力である。この能力とは、単に要介護者へのケアが出来るという事だけではない。

 3つのサティスファクションとは、CS(顧客の満足)、ES(従業者満足)、OS(組織満足)を指す。(図3参照)

 しかしそれら3つの満足はそれぞれの立場があり交わることはない。

 例えばCSではできるだけ安価で優良なサービスを多く受けたいと望むであろうし、ESではやりがいがありかつ給与や休みなど充実した待遇が受けたいであろうし、OSではできるだけサービスを充実し売り上げを伸ばし、経費を抑えかつ人材を育てたいと考えることであろう。

 つまりCSを立てればESとOSが減り、ESを立てればCSとOSが減り、OSを立てればCSとESが減る仕組みとなっている。

 よって介護事業をマネジメントする際は、CS、ES、OSそれぞれの落としどころを見出し、より良い加減に納めなければならない。このことは組織のトップから現場に至るまで全ての立場に通じることである。

  つまり組織に於ける介護リーダーも同様に、多くの職務を担っているのである。

2)役割のこなし方

(1)教育

 教育とは、介護スタッフ個々の力量を最大限に伸ばすことである。その為に介護リーダーは「まずやってみせ、解いて聞かせて、させてみて、褒める」事が重要になる。

 まずやって見せる為には自分に介護の技量がなければならない。しかしリーダーより優れた技量を持つスタッフがいる場合は、指導したいスタッフに、技量を持つスタッフに手本を示してもらうようにする。つまりチーム全体の力を底上げする教育は、Know-how(ノウハウ…やり方を知っている)が重要なのでは無く、Know-Who(ノウフー…誰が出来るかを知っている)が分かっている事が重要なのである。

 次に解いて聞かせる為には知識が無ければならない。この事はリーダーが努力して身に付けておかなければならないことである。無知では教育をすることは不可能である。

 させてみる為には、人に任せる権限の委譲が出来なければならない。役割をこなす際自らがすべて行おうとしてはならない。自分が一番出来るという自負を持つことは、驕りでなければ決して悪いことではないが、介護リーダーは、チームでやれば十進法の1+1=2ではなく、2進法の1+1=10にだって成り得る事を知るべきである。

 最後は褒める事である。褒められるとスタッフは自信が付き成功体験へと変化する。成功体験を持てば、失敗した時も「これも経験だ、次に頑張ろう」と前向きになれる。スタッフを褒めないと成功体験につながらず、「また失敗したらどうしよう」と全てが消極的となり、1+1が-2にも成り兼ねない。

 つまり教育とは、チームを動かすことを主眼に置かなければならないのである。

(2)コーチング

 教育が介護スタッフ個々の力量を最大限に伸ばすことであるならば、コーチングはスタッフの力量を最大限に発揮させることである。教育は未熟なスタッフへ行う行為であり、コーチングはプロとして認め支える行為である。
 コーチングの基本は傾聴とスタッフが自ら問題解決へ導くための情報提供である。

 傾聴とは「十四の心をもって耳を傾ける」と書き、相手を思いやって聴く姿勢が大切だという事である。十四の心とは、忠(真心をつくし)忍(しのび)思(おもい)念(いつも思い)恩(情けをかけ)恵(めぐみ)患(気にかけ)悠(ゆったりと)感(感じいり)愁(心配して)憩(いこい)想(思いはかり)慰(なぐさめ)懇(丁寧に)を指す。

 傾聴した後、自分の体験や経験値をアドバイスするリーダーがいるが、これは教育でありコーチングではない。相手の思いを理解し、受容し、共感し、より適切な情報を提供することで、当該介護スタッフに気付かせることが重要である。

7.おわりに

 今回は介護リーダーの仕事に関して、日本における介護の歴史、介護の本質、介護リーダーの役割という括りで概念ならびに総論を述べてきた。

 介護がいかに崇高な仕事で、介護リーダーの役割が奥深いものなのかを感じて戴ければ幸いである。次回からは各論を5回に渡って述べてゆくことにする。