感染症/食中毒


【前編】 レッドゾーンへの人材派遣

 2021年2月より医療従事者を中心とした新型コロナワクチンの先行接種が始まりました。2020年1月に国内の初感染者が確認されてから1年余りが経過し、待望のワクチン接種開始となりましたが、要介護高齢者および介護施設従事者への接種開始までにはまだ時間がかかるため、各施設では引き続き感染予防対策の徹底が求められます。

 本稿ではこのような現状をふまえ、筆者がクラスタター発生施設で行った支援の実際とともに、新型コロナウイルス感染症への対応・対策のあり方についてお伝えしていきたいと思います。

 なお、今回ご紹介する支援事例については、クラスター発生施設が特定できないように内容を一部加工しておりますので、予めご了承下さい。

【クラスター発生施設に対する支援までの流れ】

 基本的に、クラスター発生施設に対する支援までの流れは次の図のようになります。これは自然災害の流れと殆ど同じです。

 

〈感染症特有の現場〉

 まずコーディネーター等が施設へ出向き、状況を確認します。そして、その状況をもとに支援者との調整(マッチング)を実施することになります。

 今回のケースでは、施設内でクラスターが発生したのと同時期、同地域でクラスターが多発していたため、新たな陽性者は入院することができず、施設内で対応しなければいけない状況でした。陽性者が入院できるかどうかは非常に大きな問題であり、後の支援全般に影響します。

 また、施設内の感染状況やゾーニングの実施状況などが支援者のリスクの大きさに影響するため、特に慎重に確認しました。この時、現場確認で分かったことを次に紹介します。

・ゾーニングと運用が不安定

 現場確認の時点では、保健所の衛生指導は入っていませんでした。施設の看護職が中心にゾーニングを実施していましたが、レッドゾーン(汚染エリア)からグリーンゾーン(非汚染エリア)に移動する際の防護服の着脱で不十分さが見られました。

 そこで、自治体の関係課よりゾーニングを含め支援を受けられるように調整しました。

 ゾーニングがしっかりしていないと感染のリスクが高まるため、外部支援者を集めにくくなります。より多くの支援をいち早く受けるためにも、非常に重要な視点です。

・防護服

 自治体の関係課より防護具の提供があり、不織布のつなぎ、マスク(N-95)、フェイスシールド、シューズカバー、手袋と品目と数は十分にありました。

 しかし、実際に着用して支援に入ると、フェイスシールドが曇ったり、暑くなったりするなど長時間の支援には大きな負担がありました。

・フロアごとの感染者と職員の離職

 感染者がフロアを越えて拡がっており、居住エリアは全てレッドゾーンという対応でした。その中に陰性の利用者もいることから、今後感染が拡大するリスクが大きいこと、支援が長期間必要なことが予想されました。
また、確認に入った時点で職員の一部が休職していました。理由としては新型コロナウイルスへの感染リスクを懸念してということになりますが、実際問題として直接ケアができる即戦力となる支援者が必要な状況であることがわかりました。

〈マッチング~リスクの共有と持ち込まない対策~〉

 現場確認の内容をふまえ、支援者とマッチングを行いました。この支援者については、通常の災害ボランティアではなく、新型コロナ対策の"かかりまし経費"を活用して外部支援者を一時雇用してもらう形としました。

 雇用の形態にすると支援を受ける側に事務処理の負担が発生してしまいますが、支援中に感染するリスクが高く、その後の給与補償を手当するために(万が一には労災を使えるように)雇用という形をとりました。これは、支援者が少しでも安心して支援に入れるようにということに配慮した結果です。


また、マッチングの際は、支援者にありのままの状況と考えられるリスク並びに補償について説明しました。その一方で支援者自身が外部から入るため、事前に簡易PCR検査を実施し、感染症を持ち込まないようにという部分でも細心の注意を払いました。

 さらに、マッチング終了後に実際の支援に入るのですが、マッチングの際に伝えた状況と実際に支援に入った時の状況が変わっていたり、現場の職員によって指示が変わったりする可能性もあるため、事前に「感染のリスクが高い業務の依頼や自分の能力を超える要求があった場合など身の危険を感じた場合は拒否しても良いこと」なども伝えています。

 今回のケースの支援者は感染症にも詳しく現場経験も豊富であったため、1~2回程度のミーティングでマッチングができましたが、支援者のキャリアやスキルによっては事前の研修なども必要となるでしょう。

 この他、支援者の同居家族の構成も確認し、例えば「家族に高齢者がいるので、万が一でも感染のリスクを排除したい」ということがあれば、支援期間中に宿泊できるような体制も整備しました。

〈状況の変化と撤退の検討〉

 支援に入ると、事前確認とは違う状況がわかったり、その状況が変化したりします。
例えば今回のケースでは、次のようなことがありました。

・もともといた施設の職員が少ない
・日が経つにつれて職員がさらに感染して離脱する
・陰性だった利用者が陽性になり、さらに感染が広がっていく
・重症化して施設で亡くなる利用者が出たことで、支援者の精神的負担が大きくなっていった
 …など

 それぞれの状況変化とその影響については次にまとめます。


支援に入ってもらうフロアを固定できれば、利用者の情報とケアの方法が把握しやすく、事故防止にもつながります。しかし、今回のケースでは、最初に固定したのとは別のフロアの職員が離脱してしまい、今まで入ったことのないフロアで情報が無い利用者のケアが必要になる場面が何度かありました。

 さらに、職員の離脱により指揮命令系統が崩れ、責任の所在があいまいな状況が発生し、支援者の立ち位置が不安定で様々なリスクが増大する場面がありました。そのため、一時は支援の撤退も検討しています。

 このことは、支援先の利用者や職員に対する支援の必要性と、支援者自身の安全安心をバランスよく保たなければならないという、クラスター発生施設の支援の難しさを表していると思います。

〈まとめ〉

 今回のケースは、様々な調整をして結果的に1カ月間の支援となりましたが、支援者1名が1日8時間で週3~4日支援に入ることで、現場はかなり助かったと思います。それでも、本来であれば追加の人員を支援する必要があるなど厳しい状況になりましたが、厳しい現場に入れる支援者の数も少なく、十分な支援を届けることができませんでした。このことはクラスター発生施設の支援の難しさだと実感しています。

 また、「外部支援が動き出すと職員の休職や離職が増える」という別の現場の事例も見聞きしています。このケースでも、厳しい状況にも関わらず同一法人の他の拠点からの支援が十分だったとは言えず、外部支援の立ち位置や考え方が難しい場面も多くありました。

 新型コロナウイルス感染症のクラスター発生施設への支援は全国各地で展開されています。今後、その内容が共有されてくると、さらなる支援の形が見えてくると思います。筆者も、このような情報を随時発信できればと考えています。

 次回は、支援のもう一つの形となる「玉突き支援」について、実際と課題についてお伝えします。