チャットノベル式web連載
医療安全管理者のための
「考える力」について考える
前回は,人材マネジメントのそれぞれの仕組みのつながりと組織のあるべきスタッフ像について学びました。今回は,考える力(チカラ)について考えていきます。
医療者に必要なスキルはテクニカルスキル(専門技術)とノンテクニカルスキル(非専門技術)に分けることができますが,私は,ノンテクニカルスキルを「考える力」「伝える力」「決める力」「動かす力」の4つの領域に分けてとらえています(図1)。ただ,これら4つの領域は独立しているのではなく,それぞれの領域が「土台」という観点で関係しており,その中でも考える力は他の3つの領域の土台であると考えることができます(図2)。
図1 テクニカルスキルとノンテクニカルスキルの4つの領域
図2 ノンテクニカルスキルの4つの領域の関係性
例えば,2W1Hは,考える力の領域に当てはまるのでしょうか。
そうですね。なお,もちろん2W1Hは他の領域にも関係してきます。
それと,考える力の領域には,2W1H以外にもいろいろなスキルがあるということですよね。
はい。私は「領域」に対して「個別スキル(個別のスキル)」と呼んでいて,考える力だけでなく,伝える力,決める力,動かす力のそれぞれの領域において,さまざまな個別スキルがあります。それでは,ここからは考える力の領域に注目して見ていきましょう。
「考える」ということにはいろいろな意味合いがあると思いますが,私は,物事を「はっきりさせる」という意味合いがあるととらえています。ここで言う物事をはっきりさせるとは,物事を分かりやすくするといったことを意味しています。
なるほど。お話を聞きながら,私は「はっきりさせる」ということについて,スポットライトを当てるようなイメージを持ちました。
素敵な表現ですね! 例えば,考える力の領域の個別スキルである2W1Hも,「問題」「原因」「対策」のそれぞれの視点(論点)にスポットライトを当てるといったイメージが合っているのではないかと思います。
では,どのようにして物事をはっきりさせるのでしょうか。ここでは,2つの観点についてお伝えします。1つ目は,「分けて考えることで物事をはっきりさせる」ということです(図3)。これは,ある物事について,「Aの視点」「Bの視点」「Cの視点」といったように分けることによって,その物事を分かりやすくすることを意味しています。例えば,2W1Hもこのことに当てはまります。
図3 分けて考える
「分ける」ということに関しては,13日目(本誌Vol.8,No.2)の授業で「問題解決の文脈で実施した講演動画」を振り返ったように,「視点を分けて考える技術」というテーマで院内研修を行ったので,よく覚えています。
そうですね。では,その内容も考慮した上で,これまでの授業を振り返り,「分けて考えることで物事をはっきりさせる」ということが当てはまる内容を見つけてみてください。
(ノートを見返しながら)直近の授業の内容で言えば,24日目と25日目の人材マネジメントの全体像に関する授業を振り返ると,人材マネジメントを「採用」「配置」「評価」「報酬」「育成」「退職」の6つの仕組みに分けて考えることではっきりさせていると言えますね。
また,21日目の小さな成功のつくり方に関する授業を振り返ると,小さな成功を「事実(結果)」と「(ポジティブに)意味づけ」することに分けて考えることではっきりさせていると言えますし,20日目の組織変革と空気のマネジメントに関する授業を振り返ると,組織を推進派2割,慎重派6割,抵抗派2割に分けて考えることではっきりさせていると言えます。
そうですね。他には,問題解決を「目的」「現状」「あるべき姿」「問題」「原因」「対策」に分けて考えることではっきりさせている(問題解決の六大大陸〈世界地図〉),問題解決を「問題発見型」と「問題設定型」に分けて考えることではっきりさせている,オンライン研修を「完全オンライン型」「集合ハイブリッド型」「分散ハイブリッド型」に分けて考えることではっきりさせているといったことが挙げられます。
それに,今回の授業を振り返っても,医療者に必要なスキルを「テクニカルスキル」と「ノンテクニカルスキル」に分けて考えることではっきりさせている,ノンテクニカルスキルを「考える力」「伝える力」「決める力」「動かす力」に分けて考えることではっきりさせていると言えますね
2つ目は「つなげて考えることで物事をはっきりさせる」ということです(図4)。これは,物事(視点)と物事(視点)の関係性を見つけ出すことで分かりやすくするといったことを意味しています。
図4 つなげて考える
前回の授業では,人材マネジメントのそれぞれの仕組みのつながりについて学びました。
そうですね。例えば,配置の内容を変えれば,それに伴って評価,報酬,育成の内容も変えなければならないかもしれません。
また,2W1Hも,「問題」がなぜ起こったのか(起こっているのか)を考えるのが「原因」を考えること,その原因に基づいてどのように行動していくのかを考えるのが「対策」を考えることであると言えます。
これまでのお話を聞いていると,「分けて考えることではっきりさせる」ということと「つなげて考えることではっきりさせる」ということのつながりも見えてきました。物事を複数の視点に分けて考えると共に,その分けた複数の視点のつながりも考えてみるといったことですね?
そのようなとらえ方を基本にしておくことは大切ですね。一方で,物事のつながりを考える際には,両者の「共通点」を見てみることも大切です。
例えば,ある新しい業務を取り入れることに賛成しているAさんと反対しているBさんがいたとします。しかし,話をよく聞いてみると,Aさんは新しい業務を取り入れることによって,業務全体の質を上げることができるのではないかと考えているのに対して,Bさんは新しい業務を取り入れることでさらに忙しくなり,業務全体の質が下がるのではないかと心配していることが分かりました。つまり,両者の意見には「業務全体の質」という共通点があることが分かります。
であれば,「どちらも業務全体の質に関するご意見であることは共通していますよね。それならば…」といったように導いていくことで,話し合いを円滑に進めていくことができるかもしれません。
このように,いろいろな状況を想定しながら,「分けて考えることで物事をはっきりさせる」「つなげて考えることで物事をはっきりさせる」ということの意味合いについて考えてみてください。
次回は,「伝える力」について考えていきましょう。
メディカルアートディレクター
佐藤和弘
複数の医療機関で約10年間透析医療に従事しながら,グロービス経営大学院に進学,MBA(経営学修士)を取得。現在,院内研修などを通じて,多数の医療者にノンテクニカルスキル教育を提供。人や組織(アート)の面から,医療機関の問題解決と変革をサポートしている。また,経営者や管理者へのコーチングも行っている。
※本サービスは事情により予告なく終了することがございます。あらかじめご了承ください。